世界獣-エレメント-Ⅱ

場所は変わって、自衛隊市ヶ谷基地。


戦闘機隊隊長の奥澤は、F-15Jのコックピットで一人瞑想していた。池袋方面に巨大生物が出現し、謎のロボットと戦っているということはすでに報告されている。しかし何故か出動命令は下りていない。それはどこの基地も同様のようだ。


「隊長、何故出動命令が来ないのでしょうか?」


部隊の女性、江原が通信で問いかける。


「上からのお達し、だそうだ。すでにこの件は対処されているという」

「一体どこの部隊が対処しているのです?」

「それ以上は解らない。詮索も無用とのことだ」


といったものの、自分でもまだ納得いっていない。国を、人を守るはずの自分たちがどうして出動してはならないのか。ましてや本物の怪獣の出現という国家の危機に。

心の底にしこりを感じながら、奥澤は再び瞑想に入った。



サンシャインの屋上からアースワーム・エレメントを叩き落としたヤツフサ。司はコックピットで息を切らす。


「何とか、落っことせた……」

「気を抜くな!奴はまだ死んではいないぞ!」


ヤツフサの言った通り、アースワーム・エレメントが墜落した衝撃で起きた土煙の中からミミズの触手が伸びてきて、ヤツフサの腕に絡みついた。今度は後ろにサンシャインがあるため投げ飛ばしはできない。その意図を知ってか知らずか、アースワーム・エレメントは余裕の態度を見せつけているかのようにゆっくりと触手を巻き取りながら近づいてくる。ヤツフサもその手は食わんと必死で踏ん張っている。完全な力比べ状態だ。


「司ーーー!!」


敦たちが叫んでいる声がした。見ると後方のビルに敦たち7人とリサがいるのが見えた。


「みんな!」

「マザー!お下がりください!巻き込んでしまいます!」


司とヤツフサが同時に叫ぶ。その隙をついてか、アースワーム・エレメントは巨大な牙の生えた口を開けて噛みつきにかかった。


「!」


早く気付いた司は横に動いて頭を脇に抱えて動きを封じた。動きを止められるアースワーム・エレメント。しかしその口は何度も動いて屋上の8人に喰らいつこうとしている。


「させるか!」


渾身の力を込めてアースワーム・エレメントの腹に膝蹴りを食らわせた。強烈な蹴りにアースワーム・エレメントの力が緩み、腕に巻き付いている触手が緩んだ。それを見逃さず、触手を振りほどいて両手で突き飛ばして再び距離をとった。


「あ、危なかった……」


前の方にいた大和が腰を抜かして言った。あと少し前にいたら奴に食べられていたかもしれない。


「でもどないすんねん。あのままじゃ決着がつかへんで」

「そうは言っても今の俺たちにできる事なんて……」


皆がうろたえていた。今の自分たちにできることは何一つない。ただ司の無事を祈る事しか……

そんな7人の後ろで、リサは瞳を閉じて祈るように手を組んだ。すると7人の手に収まった球が藤色の光を放ち始めた。


「ま、まぶしい……」

「今度はなんだよ!?」


各々が球を取り出す。球はまるで生きているかのように鼓動を刻んでいた。同時にそれは何かの言葉のようにも感じ取れた。


「自分たちにも戦わせてくれ」

「君たちにもできることがある」


まだ皆の顔には迷いが浮かんでいた。でも球の鼓動は徐々に早くなっていく。まるで中に何かがいるかのように。


「この球……信じてみる?」

「マジで言ってる?」

「何もしないよりはましだと思うぞ」

「これで何も起こらなかったら笑いものだけどな」

「司、助けに行ける」

「やるっきゃないって事かいな」

「うん。司を助けに行こう!」


7人はそれぞれ言い合うと、球を空高くかざした。すると球の中から7つの光が飛び出していき、人の形になっていった。そして司がヤツフサに乗せられたように、7人も光の中へと吸い込まれていく。


にらみ合いになっているヤツフサとアースワーム・エレメント。その間に7つの光がやって来る。やがて光は晴れ、そこには7体のロボットがいた。


「七犬将ギイヌダー!」

「七犬将ワンチュウ!」

「七犬将シンヨーテ!」

「七犬将テイカオン!」

「七犬将チジャッカル!」

「七犬将レイドール!」

「七犬将コウディンゴ!」


7体は次々と名乗りを上げていく。ヤツフサの中にいる司は唖然としていた。


「成功したようだな」

「み、みんな、なのか?」

「そう……みたいだぜ」


シンヨーテにいる諒太が言う。


「助太刀に来おったで!」

「ロボ、乗ってる」

「うわ、やばくね?ロボ乗ってるとかやばくね?」

「でで、でもどうやって動かすんだ?」


反応は三者三葉。適当に動かして飛び跳ねている者もいれば、変なポーズになってしまっている者もいる。いまいちしまらない。


「何の練習もなしに今のままで行動するのは無理だ。こうなったら……」

「こうなったら?」

「八徳合体だ!」


ヤツフサが叫んだ。


「合体!?」


8人が同時に叫ぶ。すると各メカが自動的に動き始めた。

レイドールがコウディンゴの上に載るのと同時に各部位が折りたたまれていく。テイカオンとチジャッカルも同様。

4体はそれぞれ足のような形態になり、裏側がオープンしてそこにヤツフサの両足が収まる。

ワンチュウとシンヨーテは腕に変形し、背中のウイングブースターを分離し両腕を背中の部分に折りたたんだヤツフサの腕部分に合体。ギイヌダー二つに分割しヤツフサの胴体を挟み込んでいく。

残ったウイングブースターは兜のような形態に変形し、光を放って残されたリサを収容。それがヤツフサの頭に収まり……


「完成!八徳合体トライアムネクサス!!」


巨大な日本の城に似たロボットへと合体したのだった。

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