第2話 世界獣-エレメント-Ⅰ

普通の高校生が巨大ロボットに乗って怪物をやっつける。アニメや漫画ではありきたりな設定だ。

だがそのロボットにこんなことを言われるのは後にも先にも司だけだろう。


「見つけたぞ、もう一人の私」



「もう一人の、俺?」

「そうだ。私は君で、君は私だ」

「何を言っているのかわからな……うわぁぁぁぁぁ!!」


そのロボット、ヤツフサの放つ光を受けた司はその巨体の中に吸い込まれようとしていた。


「わー!司」

「えええ!噓っしょ!?」


敦と沙織が叫び、リサも含めて8人がかりで司の足をつかんで引っ張りだそうとしていた。


「離すんだ!今暴れている奴を止めなければならない!そのために彼が必要なのだ!!」


叫ぶヤツフサ。すると彼はあることに気が付いた。


「そうか、君たちもまた……」


ヤツフサは光の力を強くしてオープンした胸部のコックピットに司を吸収した。その反動で吹き飛ばされる7人。ヤツフサは飛び立つ前に七つの光を放った。それは球の形となり7人の手に握られた。


「何だこりゃ?」


敦の手には「義」と書かれた球が握られていた。凛の球には「忠」、諒太には「信」、沙織には「悌」、蓮には「智」、誠十郎には「礼」、大和には「孝」と書かれている。


コックピットへと放り込まれた司。ハッチが閉じられると同時に周囲が球体のように表示される。確か全天周囲モニターと諒太が教えてくれたものに似ている。画面端に8人が見えた。

無事であることにほっとするが、ヤツフサの声が響く。


「気を抜くな!奴はまた登ってきているぞ!」


目の前にモニターが表示された。ヤツフサに蹴落とされた怪物は建物に触手を突き刺してぶら下がり、体勢を立て直してまたよじ登ってきている。


「何なんだよあいつ!」

「世界獣だ。エレメントとも呼ばれている、全ての敵だ」


世界獣。さっきリサが呼んでいた名前だ。ミミズの世界獣、アースワーム・エレメントは両手のミミズを再び射出してきた。しかし今度は建物に突き刺すのではなく、下から見下ろしているヤツフサの首に絡みつけてきたのだった。


「ぐっ……」


ヤツフサは触手に手をかけて外そうとする。アースワーム・エレメントはミミズを巻き取りながらまっすぐに飛んでいき、ミミズにはないはずの大きな牙が生えた口を開けて嚙みつこうとしている。

今いる屋上には8人のほかにまだ避難が完了していない人たちがいる。このままこいつに組み付かれて倒れてしまったら巻き込んでしまう。


「ここにいる人たちを巻き込めない!せめて建物の反対側に行かせられれば…どうすればいい?」

「言ったはずだ。私は君で、君は私だと。自ずと答えは解るはずだ」


俺がお前でお前が俺。はやる動機を抑えながら司はコックピット内のシートに座り、両側の操縦桿へと手をかける。すると不思議な感覚が体の中に流れ込んできた。確かに、どうすればいいかすぐにわかる。


「うおおおおおおおお!!」


操縦桿を操作し、ヤツフサに触手をつかませる。ヤツフサの体にパワーがみなぎり、渾身の力で投げ飛ばした。アースワーム・エレメントは大きく投げられ、サンシャインの反対側へと投げ飛ばされた。


「超光・波動弾!」


拳からの追撃の光弾を連続で触手と胴体に浴びせ、アースワーム・エレメントをさらに吹き飛ばしていく。ヤツフサはジャンプしてさらにもう一撃を食らわせる。


「閃光・彗星蹴!」


その名の通り、スラスターを加速させ彗星を思わせるキックでアースワーム・エレメントを着実に真下へと叩き落した。落ちた反動でヤツフサは反転し、着地する。


「おい、行っちまったぜ……」

「俺たちも急ごう!」

「確かあっちの方やったよな?」


敦たちも避難する人に混じって階段から下の階へと降りていく。そしてヤツフサとアースワーム・エレメントが見える場所へ向かって駆けだしていったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る