第1話 攻撃-ストライク-Ⅰ

今年は梅雨が明けるのが速かった気がする。6月の中旬ごろから雨が降らなくなり、急激に暑くなってきた。


街を歩く学生たちもみんな半袖Yシャツで歩いている。学校に行っていない『犬大宮司』にとっては関係のない話だが。




司のいる池袋の町は今日もまた痛い夏の太陽が照り付けている。口にくわえている棒付きキャンディーがアイスクリームだったらすぐにでも溶けてしまいそうに。




「古くない?」




司の近くから声が上がる。ゲームセンターのゲーム台に座っている『犬葉敦』に『犬丸涼太』が話しかける。




「古いけど超名作だぜ。エクシードファイター03。戦略ゲーの傑作って言われているんだよ。こんなところで出会えるなんて!」




彼らの声を聴いて、司もゲームセンターの中に入る。あまりゲームをしない司にとっては普段は素通りするところだが、何となく興味がわいて入っていった。


最近はクレーンゲームが多くなっていて司が入ったゲームセンターもそうなのだが、それでも一階のいくつかにはゲーム台が置いてある。




「何が傑作だって?」


「おうよ、司もついに出会ってしまったかエクシードに。まあ見てなって」




そういって敦が100円コインを投入する。ちなみに司たちは全員同じ学校の不登校生だ。学校には行かない、行く気力がない者たちが集まり気づいたら司を入れて8人になっている。なぜか補導された事は一度もない。




「司」




後ろから声を掛けられ、司が振り向くと大きなぬいぐるみを持った女の子がいた。『犬嶋蓮』不思議が入っている娘である。




「これ、とれた」


「まじか。今日って設定強めの日だったっけ?」


「違う、でも、3回でとれた」




蓮は嬉しそうにしている。司もふと肩をすくめた。そばには一緒にクレーンゲームしてたらしい『犬石誠十郎』と『犬木大和』の二人もいる。




「二人は?」


「ぜーんぜん」


「てかほしいのあんまなかったし」




「うお、つえーな敵。だが見てろ……」




視線を敦の方に戻す。ゲームはどうやら3Dの軍人将棋的なゲームらしく、戦車や戦闘機を操作して敵のリーダーを落とすゲームらしい。




「だーっ!」




敦が叫んだ。画面に「GAMEOVER」の文字が表示される。




「お前突っ込み過ぎで防御が甘いんだよ。そりゃすぐ終わるっつーの」


「うるせー。見てろ、今度こそ……」




司が近づいて言った。




「ちょっとやらせてくれる?」


「お前わかるのかよ。ゲームあまり知らないくせに」


「さっきの見てたら何となく。教えてくれれば多分わかってくるよ」




司が100円を再投入しゲームが再開される。先行のようだ敦が横で動かし方などを説明すると、司は納得してボタンやレバーを操作する。




「おい話聞いてたか?いきなりリーダー動かすか?」


「だからってコソコソしてたら意味ないだろ。こういうゲームってさ、リーダーが前に出てこそなんだよ」




そう言って司は操作していく。彼の言った通り、着々と鉄機を撃墜していき、気づいた時にはCPUの陣地は司の駒で押し込まれていた。




「はい……終了っと」


「おい!これ傑作って言っても難易度高いんだぞ!それを綺麗に一発クリアって!」


「だから敦の戦略が攻撃に特化しすぎなんだって……」


「うるせー!ちょ、ちょっとどけ!もう一回俺にやらせろ!」




「お前ら何ギャーギャー騒いどんねん」




いつの間にか横に関西弁で喋る少女、『犬童凛』がいた。




「凛、どこにいたの?」


「コイツに付き合わされて仕方なく2階でプリクラ撮っとったわ」


「えー!リンリン仕方なくーわなくねー?割りとノリノリだったじゃーん」




ギャル…というよりはパリピっぽい女の子『犬尾沙織』がその名の通り尻尾を振る犬のごとく凛の周りを回っている。




「うろつくなや!あーゆーんはうちはあんま好まん。スマホでとればええやろ。あとリンリン呼びやめろや」


「わかってないなー。みんなで撮るからいーんじゃん。あとリンリン呼びやめない」




また二人の漫才が始まった。この二人が話すとどうしても漫才っぽくなってしまう。司はそう感じていた。




「愛称いいよな、二人とも」




「でしょ!」


「どこがや!」




二人の声が同時に響く。さすがに大声出し過ぎているためか、周りの視線が集中し始めた。




「さ、さすがにもう出た方がよくないか?」


「そうだな……サンシャインにでも行くか。ほら敦、いいかげん諦めて行くぞ」


「サンシャイン?ウチも行く行くー!リンリンも行こー!」


「ちょっ、引っ張るんちゃうわ!」


「うおー!待てー!せめてこいつを倒してからー!」


「アイス、食べたい」


「うーし、そうと決まったらしゅっぱーつ」


「だな」




涼太が敦を引っ張っていき、司や凛達も続いた。





犬大宮司


犬葉敦


犬童凛


犬丸諒太


犬尾沙織


犬嶋蓮


犬石誠十郎


犬木大和




かれら8人は、まだ何も知らなかった。やがて8人がこの地球を、そしてセカイを守る運命を担う宿命を背負う事になると……

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