攻撃-ストライク-Ⅱ
サンシャインは平日とはいえ、大勢の人でごった返していた。中へと続くエスカレーターは満杯な状態になっている。
「来たのはいいけど、何する?」
司が腕組みしながら言うと、みんな次々と要望を出し始めた。
「お洋服みたーい!」
「水族館……」
「腹ごしらえしねえ?」
「アイス食べたい」
「買い物したい」
「展望台行こう?」
「なんでもいいよ俺」
全員が口々に言う。見事なまでにみんなバラバラな意見だった。
「入ってから考えようか」
司の言葉にみんな納得したのか、エスカレーターへと順番に乗っていく。一番しんがりの司もまたエスカレーターに足を踏み入れようとしたとき、ふと何かが砕けるた音が聞こえた。音が聞こえた方向を司が見ようとしたが、後ろから来た人の波に押されてエスカレーターへと乗っていってしまった。
「ねえ、見て見て」
「やば、すごいイケメンいる」
「学生さんかなー?」
すれ違った20代程の女性がこちらをみてヒソヒソと呟いた。誰の事を言っているのかはすぐにわかると涼太は冷やかして言った。
「相変わらずおモテのようで、犬王子」
「犬王子じゃない。犬大宮だ」
「でも学校でもすごいモテてたんだろ?150人とデートしたとか」
「138人な」
「それでもすげーよ」
凛が怪訝な顔で言った。
「どうやったらそんな人数とデートできるねん」
「うーん……女の子を泣かせないよう人間関係を円滑に進めてたら?」
「それでも100人越えはヤバイやろ」
「そうなのよ。こいつは女関係だったらいろんな伝説持ってるんだぜ?それでも悪い話一切聞かないからすごいよな」
「そんだけモテるから犬王子と……なるほどなぁ」
うんうんと首を立てに振った。これ以上ツッコむのはやめようと司は黙っておいた。
サンシャインを行く人や、町を歩く人は自分の事に夢中で誰も気づかなかったが、上空から光り輝く何かが池袋の上空を降り注いでいた。
それは雪の結晶にも似た、ガラス色の透明な花だった。花は町の各所に落下し地面にしみこみ消えていった。それに気付いた人間は誰もいない……
水族館にやってきた一同は、館内をある程度見回ってから軽く食事をとった。
相変わらず沙織は凛に絡んでウザがられているし、敦と遼太は食べながらスマホを見つつ何かを話している。大食いの誠十郎は5つめのパンを口にし始め、大和はゆっくりと自分のペースで食事している。蓮は水族館の土産屋でもぬいぐるみを買って、先にゲームセンターで手に入れたぬいぐるみと一緒に抱いて嬉しそうにしている。先に食事を終えた司は彼らを眺めていた。
ここが学校だったらごく普通の学生たちに見えるかもしれない。しかし今彼らはそれぞれ私服を着て、学校をさぼってこうして遊びに来ている。周囲から見れば司たちは不良少年少女だろう。でも司たちから見ればこれが普通な光景なのだ。
思えば、もう学校に行かなくなってから何日たっただろうか。最初のあたりは数えていたがそのうちやめてしまった。今では親も何も言わない。そして同じ学校の不登校7人と出会い、こうして一緒に行動している。
何だか気分が暗くなってきたのとのどの渇きを感じ、司は立ち上がった。
「飲み物買ってくる」
「言ってらっしゃーい」
横にいた大和の声を背に自動販売機のコーナーへ向かう。するとスマホを見ていた遼太が声を上げた。
「おい皆みろよこれ!すげえぞ!」
彼が見せたスマートフォンにはネットニュースが映っていた。そこには巨大な塔に似た何かが町の中心から空に向かってそびえたっていた。
適当にお茶でも…と自販機にコインを入れようとしたとき、上空が暗くなった。
曇って来たか?と空を見上げた時、それはぶわっと音を立てて司の上に落ちてきた。キックの直撃を喰らってしまった司は「ぶっ」と情けない声と共に倒れこんだ。
「痛たたた……え?」
上から落ちてきたのは、人間だった。白いワンピースを着て、薄い白が入ったピンク色の長い髪をした女の子。
空から女の子が落ちてきた?映画みたいに?司がいまいち理解できずにいると、少女はこちらを振り向いた。買ったばかりのお茶のペットボトルがコロコロと少女の足元へ転がっていった。少女はそれを拾い上げる。ペットボトルの中のお茶は真夏の太陽を反射してキラキラと輝いている。
「綺麗……光をこんなに反射して……」
少女は明るい顔をして言った。その少女は片手に何かを持っていた。司が目を凝らしてみると、それは犬の形をした置物に見えた。
「おかえ……り?」
飲み物を買ってきたはずの司が(実際買ってはいる)知らない女の子を連れてきた事にみんなくぎ付けになった。
「お前……人間買ってきたのか……」
「ちがわい」
「司、誘拐犯」
「ちがわい」
「まさかナンパしてきた?」
「ちがわい。まあ聞け」
椅子をもう一つ用意してもらって少女を座らせ、事情を説明した。
「こういう事があって、そしてなんか後ろを付いてきちゃったのよ」
「なるほどなぁ。よかったよ知り合いが犯罪者にならなくて」
「てゆうか、この子めーっちゃ可愛くね?マジヤバたんなんだけど!」
「やかましいわ沙織。ちゅーかこの子空から落ちてきたん?」
「そうなんだよ。あーまだ顔痛い」
少女から返してもらったペットボトルでぶつかった場所を冷やす。少女は新たに買ったパン(司のおごり)をおいしそうに頬張っていた。
「君……名前は?」
司がそつなく聞いてみる。すると少女は答えた。
「リサ。私、セカイを集めてるの!」
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