第5話 街並み

 龍顎市は15年前とは見間違えるほどの街並みであった。目に入る全てが雷牙にとって新鮮である。だが、歩くときはしっかり前をみなければいけない。雷牙は人とぶつかってしまった。


「おっと、すいません」

「すいませんですむか?金払えや」


 運が悪いことにガラの悪い奴にぶつかってしまった。


「とりあえず、路地いこうか」


人目のない路地に連れて行かれる。


「この龍顎市で俺にぶつかるたぁいい度胸だな。さぁて、兄ちゃん、出すもんだそか?」

「嫌だと言ったら?」


ガラの悪い男はフンっと鼻で笑い、こう返す。


「痛い目みてもらうだけよ!」


 大振りの右フックだ。しかし雷牙にあたるはずもなのく思いっきり空を切る。雷牙はすかさずバランスを崩した男の頭を掴むと、顔面に容赦なく膝を入れる。


「ごはっ」


鼻血を撒き散らしながらのたうち回る。


「て、てめぇ、顔覚えたぞ…俺は悪流紅蓮威の森田さんと、知り合いなんだぞ、絶対チクってやる…」

「あっそ」


 龍顎市で俺になどといいながら、結局他人の名前を出すのか。こんなやつは三流も三流、ド三流だ。雷牙は路地を後にする。まだ午後2時過ぎ…さっきの動画配信者やこういう面倒なやつと会うのも癪だ。少し早いが雷牙は待ち合わせ場所に向かうことにした。


 ………


 待ち合わせ場所は小さな整備工場だった。中なら作業する音が聞こえる。 


「お客さんかぃ?悪いけど、もう新規の仕事取ってないんだ…先月大将が死んじまってね」


そう言いながら男が振り返る


「ん?あんた、雷牙って人か?」

「あぁ、少し早く来すぎたみたいだな、仕事の邪魔をしてすまない」


 男はポケットからタバコを取り出し、咥える。


「吸うかい?」

「いや、タバコは吸わないんだ」

「そうか」


 タバコの銘柄はセブンスター、火をつけて一口吸うと、男は話始めた。


「冬吾から聞いたよ、昨日は悪流紅蓮威の奴らからあいつを守ってくれてありがとう」

「大したことないさ」


 大男は坂上さかがみジャックとおると言う名前だ。父がアメリカ人のハーフだ。

 この工場は空也が営んでいた整備工場らしく、細々と常連あいてに楽しく仕事していたらしい。高校卒業後、近所だったジャックは空也に誘われ一緒に働き出したのだった。空也が亡くなったあとは、予約が残っていた仕事をしており、片付いたら閉めるつもりらしい。 


「さて、残りの仕事片付けるわ、ゆっくりしていてくれ」

「あぁ、ありがとう」


 日が暮れ始め、しばらくすると1台の車が工場に入ってきた。トヨタの86だ。かなり綺麗にしてある。降りてきたのは30代半ばくらいだろうか?銀色に染めた長い髪を後ろに束ねた美しい女性だった。

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