一難去ってまた一難

知らない天井だ。


「あっ、起きた?」


俺は悪い夢を見ているのだと思いもう一度瞼を閉じた。


「えっ?!ちょっと起きてよ!」


ひとまず起き上がり、彼女にどういう状況か説明を求めた。


「あなたが急に倒れたから私の家まで連れてきたのよ。」


「それに関してはありがとうございます。」


「ところで天賦魔法と特異魔法について少しでいいんで教えてもらえませんか?」


俺は詮索しないでくれよーと思いながら答えた。


「ごめん。流石に教えられない。」


「なら弟子にしてください!」


彼女は床に額を押し付ける勢いで頭を下げてきた。


「さっきも言ったと思うけど、これ以外の魔法使えないから弟子にはできないよ。」


「ならパーティーメンバーにしてください!」


俺は彼女の気迫に押され渋々了承した。


もう日も暮れてしまったので彼女にお礼の一杯を奢った。


「まだ自己紹介してなかったですね。ヘカーテです。これからよろしくお願いしますね。」


「ああ、俺はシーヤだよろしく。」


俺死ぬことあるっちゃあるけど、ないっちゃないからパーティーメンバーいてもいなくてもいいんだよねーとか思っていたが、流石にそんなこと言えないのでとりあえず笑顔で握手を交わした。


俺たちはしばらく呑んだ後ゴブリン討伐の作戦を考えた。


「いい歳してゴブリンすら討伐した事ないんだ。」


「恥じる事じゃないですよ。冒険者にならない人の方が多いですから。」


ゲーム、漫画、アニメの見過ぎで感覚がおかしくなっていたが、普通は死の危険がある仕事なんてやらないよなと思った。


「とりあえず詳細を教えると、ゴブリンが10体でその内1体がゴブリンキングだ。」


「普通のゴブリンなら問題ないけど、ゴブリンキングは少し厄介ね。」


ヘカーテが少し強張った顔で言った。


「倒せる見込みはありそうか?俺が一緒で邪魔じゃないか?」


俺は残機がいくらでもあるから死んでも大丈夫だが、ヘカーテがどうなるかはわからないから心配だ。


「大丈夫よ。私こう見えても強いんだから。」


「頼りにしてるぞ。」


俺は気丈に言ったが、その自信ありげな顔を見ると死んでしまわないか心配だ。


「俺が前衛で相手を攻撃して、ヘカーテが後衛で魔術で攻撃をする。これで大丈夫か?」


「私は大丈夫だけどシーヤはそれでいいの?」


言われてみればそうだ。ゴブリンとはいえ人数不利でしかも俺はまだ冒険者になって1日も経っていない。こんなの自殺行為と変わらない。


「俺は大丈夫だ。腕には自信がある。」


キメ顔で言ったがヘカーテの反応はあまり良くなかった。


「冒険者が1番やっちゃダメなのは慢心だよ。私はそれで何人もの冒険者が死んでいくのを見た。」


そんなつもりで言ったわけでは無かったのに申し訳ない事をしてしまった。


「ごめん。そんなつもりで言ったんじゃなかったんだ。」


「私の方こそごめん。でも死んじゃったら全部終わりだから気をつけてね。」


その後は他愛もない話をしてお開きになった。


昨晩の話し合いで、いつどこに集合するのかを決めていなく、俺たちはどうするべきか悩んでいた。


俺は彼女がいそうな所は昨晩の酒屋に向かった。


「「あっ」」


俺とヘカーテは酒屋の前で会うことができた。


「おはよう」


「おはよ」


「どうする?準備できてるけど行く?」


ヘカーテは装備を着込み、背丈と同じぐらいの杖を持っていた。


「グ〜」


俺の腹の虫が鳴った。


「まだ朝食べてないから、食べてからでいい?」


「ええ」


俺は酒屋に入り朝食を頼んだ。


俺は手早く食べようとしたが、食べ物にもステータスがある事に気づいた。


パン:体力を20%回復

ベーコン:攻撃力を2%アップ

牛乳:腹減りを5%抑制


炭水化物は体力を回復し、タンパク質は攻撃力を上げ、その他は様々な効果が付与される。と説明文に書いてあった。


様々な効果と書いてあるが、それがどのような効果をもたらすのかは書いていなかった。


もしかしたらダメージを軽減するとかあるのかと少し疑問に思った。


「ゆっくり食べ過ぎじゃない?」


隣で待っていたヘカーテが少しムスッとした顔で言ってきた。


「ごめん急ぐね。」


俺は味を楽しむ間もなく食事を終えマスターに100ゴールドを渡しすぐに店を出た。


急いで食べたが、食事の効果はきちんと反映されていて、ステータス欄に攻撃力2%アップ、腹減り5%軽減の2つがあった。


ゴブリンが出る森に向かってる間に緻密な計画をたてた。


まず俺がゴブリンを誘き出し、そこをヘカーテが魔法で攻撃する。そして、ヘカーテに注意が向いた奴を俺が横から攻撃する。


問題は、ゴブリンキングだ。


ゴブリンキングは、皮膚が分厚く、筋骨隆々で、個体によっては魔法も使えるかなり面倒な相手だが、所詮はゴブリンなのであまり脅威ではないらしい。


そんな話をしていたら、ゴブリンが出る森に着いた。


俺たちは先程までのゆるい空気感から、いつゴブリンが出てきても迎撃できるように、警戒し始めた。


「ここからは俺が前を歩く。俺の合図で動いてくれ。」


「わかった。ゴブリンが飛びかかってきたら、盾で防いで横に倒れるようにしてくれたら、魔法で殺すから。」


「わかった。」


俺たちは森の開けた場所に出た。


前にはゴブリンが巣穴にしそうな洞窟があった。


「俺が先に見てくる。合図したら洞窟内に向かって、魔法を打ってくれ。倒し損ねても戦闘できるぐらいの魔力は残しておいてくれよ。」


「了解。」


俺は忍足で洞窟に近づいた。


中からは腐臭と刺激臭が漂っていた。


俺は臭いを我慢しながら中を覗くと、赤く光る2つの目のようなものが10個はあった。


俺は洞窟から離れ、ヘカーテに合図を送った。


ヘカーテの杖から、人の上半身ほどのサイズの火球が出現していた。


『火の神よ我が願いを聞き入れ、神の恩恵を授け賜え。ファイヤボール・リー・シャズド』


気合いの入った呪文のような単語が聞こえてきた。


同時に、人と同じサイズ程の火の玉が洞窟に飛んでいった。


「ギャー!」


ゴブリンの悲鳴が轟いた。


ズドン!ズドン!と大きな地響きが聞こえてきた。


皮膚が焼け爛れた2〜3メートルの巨大なゴブリンが出てきた。


「グオオオオオ!」


今にも縮み上がりそうな程の怒号が聞こえ、俺は足がすくんでしまった。


キングゴブリンはヘカーテの方に向かって歩いていた。


ヘカーテは俺よりも酷く、腰を抜かしてしまっていた。


俺は死んでもいいがヘカーテに死なれたら困る。


「おい!こっちだデカブツ!」


キングゴブリンがこっちに向かって来た。


ヘカーテはまだ戦えそうにもないので、とりあえず時間を稼ぐ事にした。


今の武器では到底致命傷は与えられそうにない。


後ろを見つつ逃げていたら、ゴブリンキングの上にHPバーが出ていた。


『100/150』


俺の武器の攻撃力は10しかなく、攻撃を当たれたところでHPが10減るのかも分からない。しかも体力的にも手数的にもかなり厳しい。


幸いにもキングゴブリンの足はかなり遅く、小走りでも追いつかれないが、このまま走っていたらいつかバテてしまう。


「ヘカーテ!」


俺は腹声を出し、ヘカーテに喝を入れた。


ヘカーテはようやく立ち上がった。


『火の神よ、我が願いを聞き入れ賜え。ファイヤーボール』


先ほどよりは小さな火の玉がゴブリンキングに当たった。


『80/150』


ゴブリンキングは少しよろけてヘカーテの方を向いた。


その隙に俺が足に斬撃を与えた。


『75/150』


ダメージが5入ったということは、防御力引く攻撃力ではないことがわかった。が硬いところや柔らかいところでダメージの通りが違うなどはわからなかった。


ゴブリンキングはまだヘカーテに釘付けだ。このままだとヘカーテがやられると思った。


精一杯ゴブリンキングの足を攻撃した。


『50/150』


かなり攻撃したがあまり手応えがなかったが、HPは徐々に減ってきている。


俺が少し息を整えようと少し下がった時、ゴブリンキングの右フックが飛んできた。


俺は声も出せず悶絶しているところにゴブリンキングが追撃をしようとしたところにヘカーテの魔法が炸裂した。


『0/150』


「グオオオオオ」


ようやくゴブリンキングを倒せたが、俺の体力は3割を切っていた。


ヘカーテが急いで俺の元に来て魔法を使った。


『癒しの神よ我が願いを聞き入れ、神の恩恵を授けこの者を癒し賜え。ヒーリング・ライフナ』


俺の体にあった傷は瞬く間に治った。


だが俺のHPバーを見てみると1/3程度は減ったままだった。


ヘカーテに礼を言うために起き上がると、ヘカーテが顔色を悪くして倒れていた。


「大丈夫か?」


「大丈夫…魔力切れになっただけだから、寝てたら回復するから町まで運んでくれない?」


「わかった。」


俺は二つ返事でヘカーテをおぶった。


ナニとは言わないがたわわな感触が俺の背に押し付けられた。


俺はHPが増えたような気がした。


「そうだ、ゴブリンキングの素材とかないのか?」


「ああ…魔石と1番大きな牙を取ってきてくれ。」


今にも消えそうな声でヘカーテは言った。


「わかった」


俺は魔石の位置が分からず心臓の位置や肺、胃、腸と手当たり次第切って探した。


どこにあるか分からずヘカーテに聞いた。


「ヘカーテ魔石の位置教えてくれ。」


「…頭」


しんどそうなのに申し訳ないことをしたなと思った。


ゴブリンキングの頭蓋骨はかなり硬く、割るのには苦労した。


頭蓋骨の中には脳みそはなくかなり大きな光り輝く魔石が入っていた。


俺はそれを布にくるみ肩から掛けれるカバンのようにして、そこに牙も入れた。


俺は気を失っているヘカーテをおぶり町まで歩いた。


町に着くまでの間俺は今後のことを考え始めた。


まずグリード王国の状況を自分の目で確かめることからだと結論に至った。


そんな事を考えていたら町に着いた。


とりあえずヘカーテを宿のベッドに寝かす事にした。


ヘカーテの顔色はだいぶ良くなってきていた。


換金の方法は覚えているが、より高値で換金してくれる場所や個人で購入してくれる人がいたら損なのでヘカーテが起きるのを待つことにした。


俺は待っている暇な時間でゴブリンキングを倒した報酬やスキルポイントなどを確認した。


報酬:ゴブリンキングの牙,魔石、ゴブリンキングの血液、1,000ゴールド


スキルポイント:15


血液なんか何に使えるんだと思いながらスキルポイントに目をやった。


この15ポイントをどう割り振るかによって、今後の必要な資金や戦闘スタイルにも関わるだろう。


まずは魔法だ。ヘカーテのような魔法使いもいいが、複数パーティが前提の戦い方だ。


それだとこれから先、ヘカーテ以外にタンクのようなターゲットを取ってもらう仲間が必要だ。俺はいくらでも死ねるのに仲間を死なせるのは避けたいので魔法に全てのポイントを使うのは辞めることにした。


何にポイントを使えばいいのかわからないのでとりあえず、どんなスキルがあるのか見ることにした。


魔法には土、火、水、風、氷、毒があった。


俺は属性の多さに頭を悩ませた。


戦闘スキルには剣術、弓術、体術、回避術があった。


かなり有用そうなものだが持て余してしまうような気もした。


生活スキルには馬術、歩行術、洗濯術など多種多様なものがあるが、優先すべきスキルはないかと思ったが、一つブッ壊れスキルがあった。


歩行術の中に走っている間スタミナ消費量50%ダウンというものだ。


どんな場面でも腐らず、戦闘中にも有用なスキルだ。


俺は躊躇なく取得した。


取得には5ポイントを消費した。残りの10ポイントは残しておこう。


「うう…」


ヘカーテが頭を抑えながら起き上がった。


「おはよ。大丈夫?」


「ええなんとか。」


そう言う彼女の顔色は良くなってきていたがまだ悪いままだ。


「もう日も暮れ始めてるしゴブリンキングの素材の換金は明日にする?」


「ええそうね。私はまだ完全に回復してないから寝とくわ。」


「何か必要な物とかあるなら買ってくるよ。」


「大丈夫よ。」


一言だけ言うとすぐに寝息を立て始めた。


「ぐ〜」


俺の腹の虫が鳴った。


俺はヘカーテを起こさないように静かに部屋から出た。


俺は酒屋に向かった。


とりあえず安くて美味いものを求めた。


グラタン:体力20%回復

ビール:睡眠値20、酔い30%


俺は食事を堪能し、程よく酔いも回り気分が良くなってきた。


俺が幸せを噛み締めていると店の入り口付近で言い争いが始まった。


内容はよく聞こえなかったが、怒っている方の服が濡れていたので酔ってビールでもかけたのだろうと解釈した。


酒屋のマスターが言い争いをしている2人を止めに行ったが、かなりヒートアップしていて収まりそうも無かった。


俺の隣の席で酒を煽っていた奴が杖を取り出した。


「我が神よ彼の者の心を落ち着かせ賜え。ローアン・ビー」


すると何事もなかったかのようなその男は落ち着いた。


周りは急に落ち着いたことに動揺していたが、本人が1番驚いた表情をしていた。


俺はその隣のやつに興味を持ち、話しかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神様の便利屋始めました 描空 @kakunikominopaa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画