第84話

勇介との電話で余計なストレスを感じた俺は、ムカムカしながら当てもなく街を歩いた。




都心部に位置するこの街は、平日の昼間でも人が溢れてて。




手繋いで歩くカップル。




ベビーカーを押して歩く人妻。




携帯弄りながらニヤニヤしてるオヤジ。




アニメのフィギュアを愛おしげに撫でてるオタク。




多種多様な人間で溢れ返ってる。




そんな奴らを傍観しながら歩いてると、1人の女がぶつかってきた。




『っ、冷てぇ………』




ぶつかってきただけなら良かったのに。




よりによって、女が手にしていたアイスコーヒーが俺の胸元にバシャリとかかって、薄紫色のTシャツを見事にコーヒー色に染め上げた。




俺が小さく舌打ちしながら女を見下ろすと、女は慌てた様子でハンカチを取り出して。




『ごめんなさい!あぁ、どうしよう、早く洗わないとシミになっちゃう』




慌てふためきながらハンカチで俺の服を一生懸命拭いてる女。




その女を見据えていた俺は、気付いた。




コイツ、わざとだ。




わざとぶつかってコーヒーかけたんだ。




そう確信した。




何故なら、さっき通り過ぎたコーヒーショップの窓際にいた女だったから。




俺はこの女と目が合っていた。




やたら目立つ女だから、思わず目が行ったんだ。




女がいたコーヒーショップの回りには細い路地が張り巡らされている。




店を出て路地をグルリと回れば、俺の進行方向に先回り出来る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る