第83話

『どうもこうもねぇよ。1人で帰ったし』




『なぁんだ、つまんねぇの。どっかで落ち合ってホテルにでも行ったかと思ってたのに』




俺の返答に、勇介はこれでもかって程につまらなそうに言ってくれて。




『変な期待してんじゃねぇよアホが』




と、溜息混じりに吐き出す俺。




ホント、なに期待してんだか。




仮にホテルに誘ったって、見事に玉砕して終わりだっての。




誘う気もなかったけど。




そんな事を思いながら歩いてると、またしてもアイツの泣き顔が脳裏に蘇って。




ちくしょう。




コイツのせいだ。




電話の向こうで1人で喋ってる勇介に殺意を抱いた俺は、不機嫌さを醸し出してその声を遮る。




『用がねぇなら切るぞ』




『おいっ!今普通に喋ってんだろ!人の話聞けよ!』




『興味ねぇ。忙しいんだよ。じゃあな』




耳元でギャーギャー喚く勇介を完全無視して、電話を切った。




上の空で聞いてたものの、話の途中で由香里とどーのこーのって言ってた様な気がするが、それこそ興味がない。




勇介が誰とどうなろうが俺には関係ない。




アイツも俺と同じ、『軽い男』だ。




好みの女はとりあえず喰っちまう。




それが生き甲斐の様な男。




どうせ由香里の事も喰っちまおうって考えてるか、既に喰っちまったか、そんな内容の話だったんだろう。




そう自己完結した俺。




でも、この時の軽い考えが俺の予想の範疇を超えた出来事になるなんて、俺自身、想像出来るはずもなくて。




またアイツの泣き顔を見る結果になろうとは、思いもしなかった。

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