第85話
全ての要素から確信した俺は、Tシャツを拭き続ける手を掴んで声を掛ける。
『責任、とってくんねぇ?これ気に入ってんだよ』
低くかけた言葉に、女は『えっ?』と驚きながら顔を上げた。
その顔は、何かを期待してるような、何かを求めてるような、そんな顔だった。
部屋の鍵を開けて中に入る俺の後を、女は遠慮がちに着いて来る。
『お、おじゃまします』
戸惑った様な声で呟いた女に、俺は着ていたシャツを脱いで投げ渡した。
『責任持って洗えよ』
そう短く声をかければ、女はコクリと頷いて、少しだけキョロキョロと視線をさ迷わせてから、目に留まった洗面所に向かう。
その後ろ姿を見据えていた俺は、脱いだシャツの代わりに今朝脱ぎ捨てたパーカーを被って、ボスッとソファに腰を下ろした。
あの後、女の手首を掴んだままタクシーを拾った俺は、女も一緒に乗せてアパートに帰って来た。
どうせこの女も俺も、目的は同じだ。
かと言って、行きずりの女とのそれにホテル代を払うのは無駄だと考えた。
だから俺は、敢えて自分の部屋に連れ込んだ。
連絡先さえ交換しなければ、後腐れなく事を済ませられる。
ちなみにアパートの場所を覚えられたら面倒だから、運転手にワザと回り道をさせるように指示を出して、通常の倍の時間をかけて帰った。
もちろんタクシー代は女が出した。
俺はコーヒー片手にソファーで何本かタバコを吸いながら、女が洗濯を終わらせるのを待った。
しばらくして、洗い終わったシャツを干した女は俺の側に来ると遠慮がちに口を開く。
『終わったから、帰ります』
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