第73話

そしてベッドに座るあたしの前を擦り抜けて、備え付けの冷蔵庫に向かう俊ちゃん。




その広い背中が何処か悲しそうに見えて。




緊張して重たくなった体を持ち上げて俊ちゃんの元へと歩み寄り、その背中に抱き着いた。




オヘソの辺りに腕を回して、ギュッと力を込めて、背中に顔を埋める。




フワフワのバスローブ越しから、甘いボディソープの香りが鼻腔を擽った。




『ごめんね。大丈夫だから』




蚊の鳴く様な声で、自分に言い聞かせる様に呟くと、俊ちゃんはあたしの腕を解いてこちらにゆっくりと振り返る。




そして、優しく抱きしめてくれた。




俊ちゃんの胸元に顔を埋めると、そこから聞こえる鼓動に何故か涙が込み上げて。




俊ちゃんも、緊張してるんだ。




それを理解したあたしは、ゆっくりと顔を上げて俊ちゃんを見上げる。




そして、ゆっくりと唇が重なった。




ほんの少しだけの、触れるだけの優しいキスのあと、俊ちゃんは微笑んで。




『おいで』




と、あたしの手を引いてベッドに向かった。











パリパリのシーツの上に優しく押し倒されて、俊ちゃんの顔を見つめるあたしに、優しいキスの雨を降らせる愛しい人。




ひとしきり啄む様なキスをした俊ちゃんは、一度唇を離してあたしの顔を覗き込む。




『嫌なら無理しなくていいから。これ以上したら、ホントに止められなくなる』




そう優しく紡がれた言葉が、何処か淋しげで、あたしは笑顔で首を横に振った。




『大丈夫』

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