第72話

念入りに体を洗いながら、由香里の言葉を思い出す。




『俊一さんはひよりを大事にしたいから、一生懸命我慢してるんだよ』




本当に我慢させてたんだ。




俊ちゃんも、当たり前だけど男の人なんだって事を、改めて思い知らされた。











シャワーを浴びてバスローブを羽織って部屋に戻ると、俊ちゃんは備え付けられたコーヒーを飲んでいた。




そしてあたしに気付いた俊ちゃんは、コーヒーカップを置いてあたしの元へと歩み寄る。




『俺もシャワー浴びてくるね』




と言いながら、あたしの頭を優しく撫でた俊ちゃん。




俊ちゃんがバスルームに消えて行ったのを気配で確認したあたしは、脱力したようにボスッとベッドに腰を下ろした。




心臓が、生き物の様に激しく暴れてる。




バクバクと爆音を響かせて。




指先が震えて、体が熱く火照って、喉が渇く。




自分の体じゃないみたいだ。




こんなシチュエーションは初めてじゃない。




でも、やっぱり気持ちの大きさの問題なのか。




相手が大好きな俊ちゃんだからこその緊張感。




そんな激しい緊張で、あたしの心は押し潰されそうになってて。




どれくらい経ったのか。




俊ちゃんがバスルームから出て来た事に気付かなかった。




『ひより、何か飲む?』




突然かけられた声に、体がビクッと大きく跳ね上がった。




そんなあたしに気付いた俊ちゃんは、僅かに困った顔をしながら、




『そんなに緊張されたら、何も出来なくなるだろ?』




と。

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