第65話
人が聞いたら『たかがキス』だろう。
でも、あたしにとっては『されどキス』だ。
好きな人以外の人とのキスなんて、あたしにとっては懲役20年の実刑に匹敵する程の重罪。
執行猶予なんて言語道断なのだ。
壱星クンとの情事の前の、俊ちゃんとの会話を思い出す。
『ひより、明後日から仕事だろ?だから明日、約束の就職祝いしよう。何処に行きたい?』
『ホントに!?わぁ~い!あたしディズニー行きたい!』
『了解!じゃあ10時くらいに待ち合わせしよっか。いつもの駅でいい?』
『うん!』
あの電話の時は、こんな気持ちで今日を迎えるなんて微塵も思わなかったのに。
神様は意地悪です。
あたしがナンパ野郎と遊んだりしたから、天罰を下したのですか?
だったらもう二度としません。
だから、今日のデートをぶち壊すのだけはお止め下さい。
何卒……。
あたしは必死に神様にお願いしてから、頭を冷やす為にシャワーを浴びた。
そして念入りにブローして、ストレートアイロンで仕上げして、俊ちゃんが好きなナチュラルメイクを施して。
俊ちゃんが買ってくれたワンピに袖を通した。
全ての準備が調って時計を見ると、9時半を少し回った所で。
ここから駅まで、ゆっくり歩けば10分前くらいには着く。
最後にもう一度、姿見で全身をくまなくチェックして部屋を出た。
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