第63話

上から低い声が降って来て、言葉の意味を理解出来ずに顔を上げた瞬間。




唇に押し当てられた柔らかい感触。




そして、見開いた目に映るのは、伏せられた切れ長の目と、長い睫毛。




キスされてると気付いた時には、熱い舌が口内に侵入していて。




息苦しさを感じる程の激しいキスと、あたしの体を抑え付ける逞しい腕に成す術がなくて。




それから先の事はあんまり良く覚えてない。




気が付いたら、アミューズメントパークを飛び出してた。









どうしてあんな事になったのか、自分でも良く分からない。




ただ、壱星クンが何処か苛立っていた様な感じだったのは分かった。




そんな彼と、彼がとった行動が理解出来ず、ただひたすら怖かった。




俊ちゃんとも、あんなキスはおろか、それ以上の事をした事がないあたしは、彼の行為は恐怖でしかなかった。




あたしは22歳にして、俗に言うバージンってやつで。




俊ちゃん以外の男と付き合った事もあるけど、結局体を許せる所まで行かなくて。




あたしが頑なに処女を守る事で、付き合う男はみんな離れて行く。




だから所詮男なんて自分の欲求を満たしてくれる女じゃなきゃダメなんだって、勝手に結論付けてきた。




でも俊ちゃんはあたしに無理強いをする事なく、あたしのペースに合わせてくれて。




好きな人とならエッチしたいって思う。




でも、恐怖が先に立つあたしを受け入れてくれるのは俊ちゃんただ1人。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る