第60話
心にポッカリ穴が開いた様な感覚に気付かないフリをしながら、勇介達がいる部屋に戻った。
ドアを開けた瞬間に、さっきまでひよりが座ってた場所に目を向ける。
当然、そこにひよりがいる筈もなくて。
ずっと俺の横に置かれてたひよりのバッグもない。
そこで俺は初めて気付いた。
ひよりが、敢えて俺の横にバッグを置いてた事を。
トイレに行く時も、電話しに出た時も、ずっと俺の横に置かれてたバッグ。
その事実に漸く気付いた俺は、とことん馬鹿だと思った。
『2人して何コソコソしてんの?まさか飲むだけ飲んでバックレる相談か?』
『信用出来ないなら、あたしのバッグ預けようか?』
『いいよ。バックレたらバックレたで勇介が全部払うし。アイツは切ねぇだろうけど、その程度の女達だったって事でキレイサッパリ忘れんだろ』
ひよりと交わした会話が頭に蘇る。
アイツが心の底から『軽い男』の俺達が嫌いで、来たくなかったのに無理してここまで付き合ってたなら、いつでもトンズラこけるように気を張ってた筈だ。
でも、俺の側にバッグを置きっぱなしにする事で、『ここに戻ってくる』と意思表示してたんだ。
アイツはアイツなりに、少なからず俺達に心を許そうとしてたのかもしれない。
今更気付いたって後の祭りだって事は良く分かってるんだ。
でも、後から後から溢れ出す罪悪感と後悔の念が、俺の心を押し潰そうとしていた。
そして、何もかも初めて抱く感情に、戸惑わずにはいられなかった。
ひよりが急に帰ったことを不思議そうに聞いてくる由香里と勇介の声が、どこか遠くから聞こえてくる。
俺の心は、今はもうここにはいないひよりを無意識に追いかけていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます