第55話

それを数回繰り返した頃には、ひよりが出てから10分以上が過ぎていた。




(まだ電話してんのか?)




男との電話と決め付けてまたイラッとする俺と、変な野郎にからまれてるかも知れないと心配する俺がいた。




後者の可能性を考えた俺は居ても立ってもいられなくなって、勢いよく部屋を飛び出した。




無駄に長い通路を抜けて、フロントまで来た俺は辺りをキョロキョロと見回す。




さ迷わせていた視線の先で、デカイ柱からチラリと覗く小花柄が見えた。




僅かにホッと息を吐いた俺は、静かにその柱へと歩み寄る。




そして、ひよりの声が僅かに聞こえる距離まで来た時だった。




『うん……うん。大丈夫だよ。また明日LINEするね。うん、あたしも大好き。お仕事頑張ってね』




と、愛おしげに紡がれた言葉。




俺は、言いようのないもどかしさを感じた。




ヤキモチでもない。




悲しみでもない。




憤りでもない。




単純に、お気に入りの玩具を取られた時の様な、悔しさだった。




俺が多少は大人な分、ガキのそれよりはごく僅かな感情。




でも、悔しかった。




俺はグッと拳を握り締めて、クルリと踵を返して部屋に足を向けた。




そして一歩踏み出した時。




『おね〜さん!1人で何してんの?良かったら俺らの部屋で一緒に歌おうよ』




と言う声が耳に届いた。




バッと振り返って見れば、2人組の男に挟まれてオドオドするひよりが目に入って。

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