第54話

友達や家族からの電話で、あんなに嬉しげな顔はしないだろう。




て事は、考えられるのはただひとつ。




男だ。




間違いねぇ。




そう確信した瞬間から、俺の胸の中に黒く濁った感情が渦巻き始めた。




さっきまで吸ってたタバコを揉み消して、また新しいタバコに火を点ける。




そして、タバコとライターを置く手に自然と力が篭って、テーブルに叩き付ける音で俺はハッと我に返った。




(何イラついてんだ。俺には関係ねぇだろ)




自棄に苛立ってた自分に気付いた俺は、言い聞かせる様に心の中で呟いた。




アイツに男がいようがいまいが、俺には関係ない。




今日のこの時間が終われば、また明日からはただの隣人だ。




アイツも俺も仕事や学校が始まれば鉢合う機会だって減るはず。




所詮、今日この場限りの付き合いで終わる。




そんな事は分かってる。




分かってるはずなのに、ムカついてどうしようもねぇ。




どうなってんだ俺は。




今までこんな事なかったのに。




自分が自分でない気がしてならない俺は、訳の分からない苛立ちを振り払う様に、キンキンに冷えた生ビールをゴクゴクと煽った。




きつい炭酸が食道を通過して行くのが分かる。




そのお陰か、少しだけイライラが収まった様な気がした。




ふと時計を見る。




ひよりが部屋を出てから、5分経った。




時計から目を逸らして、またビールを煽る。

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