第51話

そんな俺の横顔を見つめてたひよりが、フッと切なげな顔をしたのを、俺は横目で確認した。




俺の言葉に何を感じたのか分からないが、眉を下げながら俺の横顔を見つめるひより。




僅かな視界に映るその顔が可愛くて、俺はもっとコイツをからかいたくなった。




ゆっくりとひよりの方に顔を向けて、




『なんてな。あんた達が本気で逃げるなんて思ってねぇから安心しろよ。俺、女に逃げられた事ねぇから』




と、笑みを浮かべながら言えば、ひよりは一瞬、鳩が豆鉄砲喰らった様な顔して。




直後には呆れた様な、ムカついた様な顔して。




そうかと思えば、今度は僅かに頬を赤く染めながらビールを煽ってみたり。




とにかく表情がコロコロ変わって、見てて飽きない女だ。




そんなひよりを前に、思わず『ククッ』と喉を鳴らして笑いを零す俺を、ひよりは珍しい物でも見たかの様な目で見つめてくる。




そして、何故か嬉しげに微笑んだ。




その笑顔が眩しくて、暖かい春の木漏れ日の光に包まれた様な錯覚さえ覚える。




恵まれた環境で沢山の愛に包まれて、素直に真っ直ぐ育って来たんだと思わずにはいられない。




俺みたいな捻くれた奴とは正反対の、純粋で綺麗な心を持ち合わせた女。




だから、こんなにも笑顔が綺麗なんだ。




俺は、俺とは正反対の、その綺麗な笑顔がもっと見たいと、素直に思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る