第49話

本気で疑ってるし。




『信用出来ないなら、あたしのバッグ預けようか?』




と、自分のバッグを壱星クンに差し出すと、




『いいよ。バックレたらバックレたで勇介が全部払うし。アイツは切ねぇだろうけど、その程度の女達だったって事でキレイサッパリ忘れんだろ』




と、素っ気なく応える。




すごくムカつくその言葉と、タバコを吸う横顔が何故かあたしの胸を切なくさせた。




この人は、人を信じて心を許す事を知らないのかもしれない。




自ら壁を作って、必要以上に他人を寄せつけまいとしてるのかもしれない。




勇介クンみたいな天真爛漫な子とつるんでるのに、壱星クンには暗い影のような物があるのは、あたしの思い過ごしだろうか。




そんな事を考えながら壱星クンの横顔を見つめていると、その顔がゆっくりあたしの方に向けられて。




『なんてな。あんた達が本気で逃げるなんて思ってねぇから安心しろよ。俺、女に逃げられた事ねぇから』




『……………』




前言撤回。




やっぱりただの生意気なクソガキだ。




変に気にしたあたしが馬鹿だった。




そう思いながらも、壱星クンの妖艶な笑みを前に顔が熱くなるのを感じたあたしは、残っていた生ビールを一気に飲み干した。




そんなあたしを、壱星クンは『ククッ』と喉を鳴らして笑ってて。




それは、まだまだあどけなさが残る笑顔で。




心のどこかで 『この笑顔がもっと見たい』と思ってるあたしがいた。

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