「女引っかけに行こうぜ」
何気に見覚えがある服を着た小さな背中が、ピクリと僅かに動いて。
その背中の主がゆっくりと俺の方に振り返った。
『『あ…………』』
俺と女の声が重なった。
まるで化け物でも見たかの様な顔をする女と相反して、隣の美人顔の女が興味津々と言った表情で食いついて来る。
『なになに!?知り合い!?ってか、もしかして隣の部屋のイケメン君!?』
(何で知ってんだ?さてはコイツ、俺の文句でも言ったか?)
と、気付かれない程度に怪訝な顔をしながらキャピキャピうるさい女をスルーして勇介の隣に座った。
俺の正面に座るのは、303号室の女。
その女は、隣で1人はしゃくじゃじゃ馬を軽くあしらいながら、俺の顔を気まずそうにチラリと見てくる。
その表情が堪らなく可愛く思えて、俺は口元に笑みを浮かべてみる。
その瞬間、女は『ピシッ』と効果音が聞こえてきそうな勢いで硬直して、俺の顔を真っ直ぐ見つめてくる。
まじまじと見る顔は、透き通るような色白の肌に、チワワみたいにクリクリとしたデカイ瞳。
それを縁取る長い睫毛。
当然、梨華みたいなバサバサしたツケマなんかじゃなくて。
本能的に吸い付きたくなる様なプックリした唇。
きつく抱きしめたら壊れちまいそうな程に華奢な体。
その全てが、俺の目を釘付けにさせる。
からかってやるのに楽しそうだと思ってただけなのに。
今の俺は、例えて言うなら喰っちまおうと狙ってたウサギに目を奪われたライオンになった様な気分だった。
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