第38話

なんでも親父の言いなりになってた兄貴だと思ってたけど、兄貴は兄貴なりに自分の意志を持って親父と向き合ってたのかも知れない。




自分の意見を伝えて、親父の意見も聞いて、食い違ったら何度も話し合って、そうやって理解し合って来たのかも知れない。




もしそうなら、それを理解せずに兄貴をつまらねぇ奴呼ばわりしてた俺の方が、よっぽどつまらねぇ奴で、ただの我が儘なガキでしかないのかも知れない。




兄貴の言葉で現実を思い知らされた気分の俺は、その場でタバコを1本くわえて火を点けた。




そしてタバコを吸うようになって初めて、タバコがマズイと思った。




今、こんな気分で吸うのはタバコに対する冒涜だと思った俺は、一口だけ吸ったタバコの火種を落としてケースの中に戻した。




シケモクはマズイ。




けど、今吸うよりはウマイと思えるはず。




そう自分に言い聞かせて俺は店内に戻った。









アイスコーヒーを買って俺が座ってた席に目を向けると、勇介の姿がない。




(便所か?)




と思いながら元いた場所に足を向けた時。




俺達がいた席の斜め前から『キャッキャウフフ』と自棄にテンション高い女の声が聞こえて、何気に目を向けると、そこにいたのは。




『…………あの野郎…………』




小さく呟いた瞬間、俺に気付いた勇介が『お!壱星!』と手を挙げた。




『チッ』とデカイ舌打ちをした俺は、




『てめぇ、人がいなくなった隙にナンパしてんじゃねぇよ、この女好きが』




と、低く唸った。




そして俺に背を向けて座ってる女2人の背中をチラリと見遣った瞬間。

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