第35話

『お前がフッたの?梨華の話じゃ、お前に最低な事されたから別れてやったって言ってたぜ?』




…………あの女、性格悪かったのか。猫被ってやがったな?




『俺が飽きたからフッたんだよ。梨華の話真に受けてんじゃねぇよ』




額に青筋浮かべて低く唸りながら背もたれに肘をかけて、無駄に長い足を組んだ。




そんな俺の様子をじっと見ていた勇介が、再び満面の笑みで言う。




『ま、どっちでもいいけど。これでお前もフリーだ。女引っ掛けに行こうぜ』




『1人で勝手に行け』




仲間思いだが俺と一緒で女グセが悪い勇介の誘いをズバッと切り捨てると、勇介は唇尖らせながらブーブーと文句を言い出した。




そんな勇介を完全に無視していると、パンツのポケットから着信を知らせる音が。




『電話』




と短く言って店の外に向かう俺を、勇介が恨めしげに見ていた事は完璧にスルーだ。










『もしもし』




と無愛想な声で電話に出ると、なんの前置きもなく頭に響く怒鳴り声。




『この馬鹿息子が!!親の許可もなく家を出るとは!!何処まで親を馬鹿にすれば気が済むんだ!!少しは兄を見習え!!』




出たよ、クソ親父の決まり文句。




なにかっつーと『兄貴を見習え』だ。




ディスプレイで親父からの電話だって事は確認した。




出ないでシカトも出来たけど、それを繰り返してたら親父は必ず何かしらの手を打って家に連れ戻そうとするはず。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る