第29話

イケメン勇介クンの言葉巧みな誉め殺し攻撃に『キャッキャウフフ』とテンションMAXな由香里の隣で、あたしは1人ポツンとアウェイ状態。




キャラメルマキアートをちゅるちゅると飲みながら、




(てか、こんなだったらあたしいなくてもいいじゃん。2人で楽しんで来ればいいのに………)




と、完璧に勇介クンの友達の存在を忘れて心の中で呟いた時だった。




『お!壱星!』




と、勇介クンが声を張り上げた。




するとあたしの背後から『ちっ』と舌打ちが聞こえて、




『てめぇ、人がいなくなった隙にナンパしてんじゃねぇよ。この女好きが』




と、苛立った様な声が。




(口が悪いなぁ)




と思った瞬間、あたしはハッとした。




何処か聞き覚えのある低い声に、嫌な予感を感じて恐る恐る振り返ると。




嫌な予感は的中するもので。




『『あ……』』




と、あたしと彼の声が重なった。




そんなあたしと彼の様子を見逃さなかった由香里が、物凄い勢いで食いついてくる。




『なになに!?知り合い!?ってか、もしかして隣の部屋のイケメン君!?』




あたしと彼を交互に見遣る由香里をスルーして、勇介クンの隣に座った彼にチラリと視線を向ける。




そんなあたしの視線に気付いた彼の唇が、ゆっくりと弧を描いた。




2度目に見るそれは、1度目よりも更に怪しげで魅惑的な笑みだった。




そしてそれは、あたしの思考回路を停止させるには充分過ぎるもので。




例えるなら、百獣の王に睨まれた草食動物の様な気分だった。

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