第10話

漆黒の髪の毛は少し長めで後ろでひとつに纏められて、前髪はオールバック。




健康的な薄い小麦色の肌に、シルバーで太めのチェーンネックレスが良く似合ってて。




昨日は良く見えなかった顔も、思わず息を飲む程に端整に整えられていて。




そんな彼の姿にほんの一瞬だけ目を奪われていると、綺麗な切れ長の目があたしを捕えた。




そして、形のいい唇が僅かに弧を描いて、ゆっくりと開かれる。




『人のキスシーン盗み見するなんて、随分悪趣味な女だな』




………………は?




あたしの空耳?




ってか、盗み見?




耳を疑う台詞に、脳内では疑問符が激しく飛び交 う。




そんなあたしを余所に、再び彼が。




『てか、盗み見じゃねぇか。ありゃ堂々としたガン見だったな』




なんて、ククッと喉を鳴らしながら言うもんだから。




『~~~!こんな所で堂々とキスする方が悪いのよ!バカじゃないの!?』




頭に血が上ったあたしは、そんな捨て台詞をぶつけて階段を駆け降りた。




バカバカ最っ低!!!




ほんの一瞬でもカッコイイと思って見とれたあたしがバカだった!




最悪!信じらんない!




そして俊ちゃんごめんなさい!




俊ちゃん程カッコイイ男なんて、この世にいません!




隣人の最低な言葉にいきり立ったあたしはそのままの勢いでスタバにダッシュして、約束の10分前には着いていた。

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