第6話

だからなかなかゆっくり会えないけど、その分時間を見付けては電話をくれて優しい言葉をかけてくれる。




さっきの電話も、きっと屋上に出てコーヒーでも飲みながらかけてくれたに違いない。







俊ちゃんの優しい笑顔を頭に浮かべて幸せに浸っていると、頭上からの痴話喧嘩が収まっていた事に気付いた。




階段に座っていたあたしは『よっこらしょ』とババくさい掛け声と一緒に腰を上げて、重たい荷物を持って階段を上がって行く。




そして3階に着いた瞬間に目に飛び込んで来た光景に、目を丸くした。




あたしの部屋は303。




階段を上がって左手に301、階段の真っ正面に302、右手に303がある。




あたしの丸い目の先には、302号室が。




そして、その玄関先には先程まで痴話喧嘩していたであろうカップルが。




そしてそして、そのカップルはあたしの目の前で堂々と熱~い、せせせ接吻!?




でも良く見ると(良く見るな)女の方は男の首に腕を絡めて唇を貪ってるけど、男の方はスウェットのポケットに手を突っ込んで、シラけた目で女の顔を見据えている。




生まれて初めて他人のキスシーンを目撃して、動けずにいるあたしがハッと我に返った瞬間だった。




女の顔を見据えていたシラけた目が、ふっとあたしを捕えた。




そして目が合った瞬間。




あたしを捕えた瞳が、妖艶な笑みを浮かべた。

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