第15話
ひらがなは、無限の解釈があると思ってる。
きっと、ひとつの意味に捕らわれてほしくなかったんじゃねぇかな。
そう告げると。
揺れる瞳で一瞬、笑ってくれた気がした。
すぐ下げられた視線には、自分の靴が映っているのだろう。彼女の水川はる音さんのローファーは、水滴が一つ、また一つと水玉を描いている。
「俺さ、今日偶然、母親にハンカチ持ってけって言われてはいってんだよね。」
毎日、何となくいれていたハンカチにやっと出番がきたようだ。
それは、水川さんの手に渡り、一瞬で色を変えていく。
何も言わず、拭う彼女は、何を思っているのか。
少し落ち着いた彼女を入口近くの椅子に座らせる。
周りは、俺が泣かせたと思い、刺さるような視線を投げてくる。
(……うるせ。)
すすり泣く声が少し静まって、ゆっくり彼女の顔を窺った。
「(…泣き止みそ?)」
「(……何か、見られてるのが恥ずかしくなってきた。)」
「(……なんか、照れてる?)」
「(……でも、ちょっと落ち着いてきたかも。)」
「(…大丈夫そ?)」
水川さんが落ち着いてからは、俺の名前についてや実は彼女がハンカチ持ってたこととか、何でもないことを話した。
話していくうちに、涙の意味も変わっていった気がして。
「まだ、泣いてるし。そろそろ泣き止みなよ。」
一筋流れ落ちるそれを軽く拭う。
すると。
声にならない声をあげて、慌てて、ななちゃーん!と叫びながら、恐らく友達であろう“なな”に抱きついていた。
その背中に、今度、ハンカチよろしくな、と投げ掛けた。
また、会いたい。
そう思った。
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