第14話

「てか、俺、幸人って言うんだけど。」




そう言えば、聞いてなかった名前を告げる。


自分でも驚いたのは、何も気にすることなく、名前を告げていたこと。




昔から、自分の名前が嫌いだった。

“幸せな人”と書いて、ゆきひと。



意味が分かる年齢になって、自分の名前を口にすることはなくなった。

親が付けてくれた名前だから、とかすごく良い名前じゃないと言われるとか。


全部面倒くさくて、尚嫌いが増した。



何が嫌いなのと問われることはあるけど、それは説明が難しい。

ただ、ずっと嫌いだった。

感覚的なものだろう。


名前負けしてる、というのが今のところしっくりくるのか。




でも、何故か目の前の彼女には、迷うことなく伝えていた。




その瞬間、僅かにだが、肩が揺れた気がした。






「あ、えっと、みず、かわです。」



「…水川、なに?」



「はる、音、です。」



「はるね、か。どんな字書くの?」



「ひ…、平仮名のはる、に音…」





普段、下の名前なんて聞くことないのに、何故だろう、目の前の水川さんには、物足りなくて、尋ねた。



それだけでは飽き足らず、かたちまで知ろうとした。




きっと。


この水川さんも、名前に対して何かあるのだろう。

何かかける言葉を探すけど、最善は分からなくて。



一番最初に思ったことを伝えるべきだろう。






水川 はる音。







ひとつ、息を吸って。




 




「いい、名前だね。」










ありふれた、その辺りに転がっていそうな言葉だが、本当にそう思ったから、並べてみた。


この水川さんなら、分かってくれる気がして。

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