第13話

「(…あ、)」






一瞬、目が合った気がした。


だけど、すぐ下を向かれ、ぎゅっとグラスを握っている。






自然と彼女に足が進み、気づけば、目の前に立っていた。




「こんにちは。」




そう、声をかければ、びくっと体が反応して、弾かれたように顔をあげた。


俺を見上げて、ぱちぱちと瞬きを繰り返し、しどろもどろになりながら、こんにちはと返してくれた。




ひとりだよね、見てたからと伝えると、少しだけムッとしたようで、口を少しだけ尖らせた。




(すごく、素直な子だな。)




「ごめんね、怒った?」





普段なら、はじめましての人に対して、こんなこと言うことはないのに、なんだか、からかいたくなった。


だけど、相手からしたら、良くは捉えられないわけで。

ずっと、疑心をもつ態度で返されている。


それが、もっと加速させるのだけど。


(……屈折しすぎだろ。)




「ごめんごめん。こういう場苦手そうなのに、一生懸命馴染もうとしてて、可愛いなって思って。」



俺は、そんなことしようとも思わない。

なんなら、あいつらに見つからないうちに帰ろうと思ってるし。




そんなことを伝えていると。


やっぱり、押し黙ってしまったので、空気を変えようと、配られていたドリンクをその子に渡そうとすると、


わーわー慌て出し、時間を下さいと言い逃げする始末。



(何だろう、この子。……面白い。)





でも、本当に若干顔色は悪い気がして、通りすぎようとする彼女を引き留める。



「え、なに。気分悪いとか?」



変わらず慌てる彼女を覗き込むと、ちらりと見えた涙目の赤い顔。



(……かわいい、)




ちがうちがうと首を振り、女子高で慣れてないと声にならない声で話す。



泣かせたい、苛めたいとかではないんだけど、からかいたくなる感覚、、


(……なんだ、これ。)




なるほど、と紡ぎながら、

さわさわと主張しだす胸元を、隠すようにそっと掴む。



「なんか、面白いね。あなた。」



ただ、知りたい。目の前のこの子のことを。




「…あ、あなたは、優しい、ですね…ちょっと、意地が悪いですけど。」



(…すげぇ、素直。)



最後のは要らねぇけど、と返すと、僅かに上げた口角を見逃さなかった。

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