第56話 素直に認めた方が楽になるよ?

 帰省二日目の、お盆初日。

 燦々と照りつける太陽の下、親父の休みの兼ね合いで混み合わないうちにお墓参りを済ませることになった俺たちは桑染家の墓がある集団墓地にいた。


 ここには親父の父……祖父を含めた一同が眠っている。

 祖母は健在だが歳を取ってぼけてしまい、老人ホームでお世話になっているのだ。


 母さんの祖父祖母はどちらも元気だが、仙台よりもさらに遠方……北海道在住のため今回の帰省では会えそうにない。


「私も同行してよかったのでしょうか」

「いいのよ。月凪ちゃんがいてくれたらおじいさんも喜ぶわ」

「であればいいのですが……」


 月凪の表情はあまり晴れやかではない。

 自分の家ではない墓参りに同行するのが気持ち的に微妙なのはわかるけども。


 嫌とかではなく、どういう心境で向き合えばいいのかわからない的な意味で。


「無理に連れてきたみたいな感じになって悪い」

「珀琥まで……本当に違うんです。家族ぐるみでお墓参りをするのは初めてなので、なんとなく雰囲気が掴めなくて。一人では毎年行っているのですが」


 ……家庭の事情が窺える言葉で何も言えなくなる。


 毎年一人で行ってるのは亡くなった母親のお墓へ、だろう。

 今年はまだ行っていないはずだから、帰ってからか。


「まずは墓掃除からだな。親戚がこまめにやってくれてるから、そんなに手間はかからなさそうだ。水を汲んでくるから待っていてくれ」


 バケツを持った親父が水を汲むべく水道……坂の下にある寺まで歩いていく。

 残された俺たちは雑草抜きだけでもしておくことになった。


 暑さに耐えながら軍手をはめて適当に目に付く雑草を抜き取る。

 親戚の手が入っているから大した量じゃない。

 それでもこの暑さに晒されているだけで汗が止まらない。


「あ~~~~あっつい!!」

「暑いって言ってると余計暑く感じるぞ」

「だってさぁ……月凪さんもそうだよねっ!?」

「ですね。私も暑いのは苦手です」

「ほらほら! お兄ちゃんは妹にも優しくしなきゃダメだと思いまーす!」


 やいのやいのと話す構図は二対一……のように見せつける淡翠。

 月凪は望んで淡翠の味方をしたわけじゃないだろうけどさ。


「二人とも一日でこんなに仲良くなったのね。姉妹みたいじゃない」

「淡翠も月凪さんみたいなお姉さんがいたらよかったなあ」

「顔が怖い兄で悪かったな」

「淡翠さんを見る目は随分と優しいですけどね」

「お兄ちゃん淡翠のこと好きすぎない?」

「淡翠こそ俺のこと好きすぎだろ」

「私のことはお嫌いですか?」

「……話をややこしくするんじゃない」

「答えになっていませんけど」

「…………好きだよ。これで満足だよな。満足だと言ってくれ頼むから」


 お願いだからと目線でも訴えれば、月凪は「言わせてしまいましたね。ありがとうございます」と微笑んだ。

 策に嵌められた感が凄いけど気にしない。

 誰も不幸な思いはしていないのだから。


「珀琥も言うようになったわねえ。楽しみにしているわよ」

「母さんまで。何を楽しみにしてるのかは聞かないぞ」

「月凪ちゃん、これは照れてるだけだから気にしなくていいわよ」

「みたいですね」

「お兄ちゃんかっわいい~」


 女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。

 男女比をそのまま押し付けられている気もするけど。


 母さんと淡翠は見ての通りだし、月凪も結構乗っかってくる。

 ……この帰省中、俺は揶揄われ続けるんだろうな。

 悪気はないから責めにくいし、止められる気もしない。


「おーい、戻ったぞー」


 そんな折に水を汲んだ親父が戻り、俺と親父が墓石の掃除に移る。

 墓石に水をかけ、柔らかいスポンジで上から下へ汚れを落としていく。


 定期的に手入れが入っていても雨風に晒されているため、水垢や土汚れがどうしてもついてしまう。

 丹念に掃除を終えたら供え物をしてお参りを済ませる。


「これで墓参りも終わりか。掃除も手伝ってもらってありがとな、月凪」

「同行させていただくのですからこれくらいは当然です」

「そんじゃ、ちょっと早いが帰るとするか。今年はお盆休みを取るのが難しくてなあ。今日くらいしか家族揃ってこられなかったんだよ」

「明利さんは明日もお仕事ですもんね」

「ま、家族のために頑張るさ。折角月凪ちゃんもいるからみんなでどっかに出かけられたらよかったんだが……」

「そんな、私のことはお気になさらず」

「むしろお父さんが淡翠たちと出かけられなくてさみしいんじゃない?」


 なんて和気藹々と話せるのは、家族仲がいい証拠だなと心から思う。


 月凪もこれなら気楽に過ごせるだろうか。

 実家に連れてきてしまった手前、どうしても気になってしまう。


「月凪はどこか出かけたいとこはないのか?」

「正直、私ってインドア系どころか引きこもりじゃないですか。なのですぐには思いつかないですけど、珀琥と一緒ならどこでも楽しいと思いますよ」

「二人だけでデートの相談? いいわねえ。そういうのは若いうちの特権よ」

「デートって大袈裟な。こっちに来る機会なんてそうそうないだろうから、出かけたいとこがないか聞いてただけで――」

「男女が二人でお出かけしていたら、それはデートだと思いますけどね」

「そうだよお兄ちゃん。素直に認めた方が楽になるよ?」


 ……まあ別に、それでもいいけどさ。


 ―――

メリークリスマス!(季節感真反対)


新作始めてしまったばっかりにストックが本当にまずい(まずい)

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