第42話 水着って布地面積的にはほぼ下着ですよね
――みんなでプール行こうよ!
そんな文言が燐と花葉がいるグループチャットに投下されたのが昨日のこと。
夏休みに入る直前に話していたお誘いが来た。
俺と月凪は基本暇だからすぐに承諾の返事をして、燐も空いている日を提示してくれた結果、数日後に決まった……のだが。
「水着を買いに行くためとはいえ、こんなに暑いと引き返したくなりますね」
「着いてしまえばエアコン効いてて涼しいんだけどなあ」
俺と月凪は水着を買うべくショッピングモールにいた。
プールに誘われても水着がなければ泳げない。
そして水着の持ち合わせもないので、買いに行くことになったのだ。
うちの学校は体育の授業で水泳がない。
敷地的な問題だと思うけど、個人的にはなくて助かった。
水泳の後の授業はめちゃくちゃ眠くて大変だからな。
ショッピングモールは夏休みだからか、人が多い気がする。
混雑ではぐれないためにも手を繋いだままだ。
いつもと変わらないからいいけども、いつにも増して感じる視線が多い。
理由は……まあ、薄々察するけど。
夏で暑いこともあって、必然的に月凪の格好は薄着だ。
今日は爽やかな雰囲気の、半袖で淡い青色のワンピース。
腰のあたりに飾られたリボンがウエストを強調していて、下は足首の少し上まで丈がある。
足元も低いヒールのミュールを履いていた。
けれど、そのせいか、いつもより足取りが重い。
俺もそれに合わせて歩幅を縮め、置いて行かないように度々様子を窺っていた。
髪型も俺に一任されたから、いつもとは趣向を変えてサイドテールにしてある。
だからか、いつもより活発な雰囲気に見えなくもない。
「珀琥はどんな水着が好みですか?」
「女性用の水着なんてビキニかワンピースくらいしかわからんぞ」
「大まかな形で言えばその二つがメジャーだと思いますけどね。紐みたいなスリングショットやマイクロビキニが好みと言われたら流石に考えますけど」
「それは即断ってくれよ……」
水着を選べと言われて際どいものを選ぶのは色々拙いのではなかろうか。
そういうのは漫画やアニメの中だけに留めてくれと思わないでもない。
でも、月凪の返答的に頼んだら着てくれるのかって疑問は残る。
試す気には心情的にもなれないけどさ。
「私、友達とプールに行くのは初めてなんですよ。珀琥は?」
「俺もだな。……この話辞めないか? なんかすごい虚しく感じる」
「自分で言っていてそう思ったところです。まあ、過去は過去と割り切りましょう。それより水着ですよ、水着。知らない人に肌を見られるのはちょっと嫌ですけど、珀琥に見せるためでもありますし」
真剣に選ぶつもりなんだろうけど、理由を告げられると喉が詰まる。
俺に見せるために水着を選ぶ意図を考えたらな。
「というか、海やプールではみんな普通に着ていますけど、水着って布地面積的にはほぼ下着ですよね」
「……女性側がそれを言うのか? 男は上裸でもまあって感じだけど」
「私も水着を着るときは気にしないようにしていますけど、考えないわけではありませんし。でも、珀琥も考えたことはありませんか? 下着の代わりに水着を着ていたら、それは水着ではなく下着になるのでは……とか」
滔々と月凪が呟く質問に、俺も同意を示す。
実際問題、難しい話だと思う。
水着の用途を考えると水場用の服という表現が適切だと思うが、形だけ見れば下着のそれとそん色ない。
生地にも目を向ければ違いはあるけど、形がやっぱり大事なんだろう。
人間が得る情報の多くは視覚から……というのをなにかで見たし。
「けど、下着を海やプールでは着ないだろ?」
「そうなんですよ。用途が違うのはわかっています。デザインも水着より下着の方が精緻なものが多いですし。着心地なんかも考えると、下着として着るならやっぱり下着になるんでしょうね」
「……ところで、俺たちはなんで下着と水着の違いについて議論しているんだ?」
「なぜでしょうね」
……そこで含みのある返答をされるのはかなり不安なんですけど?
そんな一幕を挟みつつ水着売り場に来た俺たちは、ひとまずそれぞれ見て回ることに。
俺も女性向けの水着売り場に入るのは遠慮したかったからな。
どう頑張ってもバリエーションが少ない俺が先に選んで、まだ選んでいる月凪と合流することになるとは思うけど。
「にしてもプールか。レジャー系って聞いてるけども……」
泳ぐのを楽しむより、遊べる水場って考えておいた方が良さそうだ。
予定の場所はウォータースライダーとかもあるらしい。
正直、結構楽しみだったりする。
なんて将来の予定を考えながら水着をパパっと選んでしまう。
ピッチリ系よりは余裕のあるボクサータイプの方がいいな。
本格的な水泳なら抵抗を考えて……とかあるのかもしれないけど。
サイズだけはちゃんと確認してから買い、レディースの売り場へ。
そこで月凪を探し……やけに真剣な眼差しで水着を眺めているのを見つけた。
立ち入るには躊躇いが勝るそこへ立ち入り、一直線に月凪の元へ寄ると、
「月凪、いいのはあったか?」
「……もう選び終わったんですか、珀琥は」
「そういう月凪は迷ってるみたいだな」
「残念ながら迷う段階ですらないですよ。大体、来るのが早過ぎるんです」
「…………まあ、そうだな?」
月凪の言う通り、迷う時間は皆無だったけどさ。
「てことで、珀琥にも付き合ってもらいますよ。私の水着選び」
「俺のセンスを当てにするのは間違ってると思うが」
「男性の感性は意外と大事ですよ。大丈夫です、鵜呑みにはしないので」
……それならまあ、意見だしくらいはするけども。
―――
好みに合わせたいんだぞ
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