第3話 とても仲がいいんですよ
ラブコメ日間10位でしたありがとうございます!
連載中に初めて表紙入ったかも……;;
―――
「やっぱり髪型は
今にも鼻歌を歌い出しそうなほど上機嫌――とはいってもすまし顔であることに変わりはないのだが――の
手を繋ぐのは恋人アピールのため。
人とすれ違うたびにめちゃくちゃ見られることには諦めがついた。
そんな月凪の長い銀髪は本人の要望によりハーフアップへと変わっていた。
結ったのは俺である。
月凪に髪のセットを頼まれるようになったのは年明けくらいからだ。
実家の妹の髪型を整えていた話をしたら、物は試しと頼まれたのが始まり。
以来、気に入ったのか度々月凪は俺に髪のセットを頼むようになってしまった。
髪は女の命とも言われるほど大事なものだから、どうしても緊張してしまう。
だから月凪に髪の結い方を教えようとしたのだが……とても見ていられないくらいに下手だったので諦めた。
本人も自覚していて、髪型が常にストレートだったのはそれが理由らしい。
「素材がいいからな。どんな髪型にしても大抵似合う」
「素材は調理してこそ真価を発揮するものですよ」
「今日も可愛いぞ……これで満足か?」
「若干投げやりなのが不満ですね」
「言わせといてその言い草はどうなんだ?」
これじゃあ俺が一方的に羞恥を味わうだけじゃないか。
半年も偽物の彼氏を演じて、らしくない振舞いをしている自覚はあるが、羞恥心が完全に消えたわけじゃない。
手を繋ぐのも、世のカップルみたいにいちゃつくのも、今みたいなやり取りも、出来ることなら人前ではしたくない。
でも、それだと契約の目的を果たせないから受け入れているだけ。
……まあ、本気で嫌だと思っていないのもその通りなんだが。
異様に察しのいい月凪がラインを見極めているのか、心の底から拒否感を覚えるようなやり取りはしたためしがない。
だから半年も歪で居心地のいい関係が続いているのだと思う。
そうこう話している間に俺たちが通う清明台高校に到着していた。
校門を潜れば周りは同じ制服を着た生徒ばかりになり、向けられる視線の質も若干変わる。
それらをなるべく気に留めず、上履きに履き替えて教室へ行こうとしたのだが――
「……はあ。またですか」
下駄箱を眺めながら深いため息をつく月凪。
その手には、一通の手紙。
ご丁寧に『白藤月凪さんへ』と宛名まで書かれたそれの意味は知っての通り。
「どうして珀琥と付き合っているのに告白しようだなんて思うんでしょうか」
「さあな。ワンチャンあると思ってるか、ひやかしか、俺に脅されてるなら助けるよとか……まあ、そういうのだろ」
「前二つはともかく、最後は私に嫌われるだけだと学習してほしいものです」
俺と月凪は付き合っていることを公言しているが、月凪へ寄せられる告白の回数はゼロにはならなかった。
既に月凪も慣れたのだろう。
二階の教室へ向かうまでの間に手紙を開けて中身を確認したら、詰まらなさそうに鞄へ仕舞っていた。
本当にご苦労なことである。
二年生に進級したことでクラスメイトの顔ぶれも多少変わった。
けれど、幸運なことに月凪を初めとした数少ない知り合いは同じクラスになり、なんとかぼっち生活を免れている。
俺の席は特等席なんて呼ばれる窓際最後方。
月凪は俺の一つ前。
そして、俺たち二人の隣はどちらも普通に話せる、数少ない友達である。
「おはよう、珀琥くん。白藤さんも。今日も仲良さそうだね」
「おはよー、二人共。朝から手繋ぎ登校なんて見せつけてくれるじゃん」
前者は月凪の隣であり、かっこいいより可愛いと言われることが多い小柄な男子――
爽やかな笑みを浮かべながらの挨拶は、女子を魅了するにはじゅうぶんな魅力に溢れている。
実際、燐はバドミントン部で活躍していて、女子からの人気がかなりあるのだ。
……まあ、別な方面での人気があることも話としては聞いているが、それは別の話。
そして後者は俺の隣、明るい茶髪が特徴的な制服を着崩しているギャル系女子――
いつも機嫌が良さそうで今も人懐っこい笑顔の花葉は、俺にも物怖じせずに関わってくれる数少ない異性の知り合いである。
「燐と樹黄もおはよう。あと、月凪と仲いいのは認めるけども、見せつけては――」
「おはようございます。お二人が言う通り、私と珀琥はとても仲がいいんですよ」
ぐい、と月凪に手を引かれ、腕と腕が触れ合う。
所有権を主張するかのような距離感のまま、月凪が二人へ挨拶を返す。
すると、目の前の二人のみならず、教室中から視線が集中しているのを肌で感じた。
女子からは微笑ましげ……ともすれば安堵とすら受け取れるそれを。
男子からは嫉妬と羨望に加えて『なんであんな奴が』のような敵意を露わにしたものも混ざっている。
それらの対応は俺の立場では諦めるしかない。
身体的な害がないから無視できることだけは救いか。
「……そうだな。もう半年も付き合ってるわけだし」
「今のところ別れる気はどちらにもありませんからね」
月凪が聞こえるように言っているのはわざと。
自分へ告白してくる人への牽制を込めた宣言だ。
それも月凪が告白される頻度を考えるとどこまで役に立っているのか怪しいが、やらないよりはマシだろう。
「ほんと、お熱いよねえ。でもま、好きな人がいる女子は二人が付き合っていてくれた方がありがたいのかな。自分の想い人を取られる心配がなくなるわけだし」
「勝手に好きになられたら私ではどうすることも出来ませんけどね」
「それはもう仕方なくない?」
肩を竦めて言ってのける月凪に花葉も苦笑しながら返す。
自分の魅力に相当な自信がなければ言えない言葉だ。
けれど、月凪がそれだけの魅力を有していることをわかっているからこそ、笑うしかないのである。
「珀琥くんも白藤さんと付き合ってから怖くない人だって少しずつ広まってきてると思うから、僕も嬉しいよ」
「その割に話しかけられたりはしないんだよな。なんなら遠巻きに見られることが増えた気がする。……あれだ、動物園で猛獣を見てるみたいな感じ」
「本当は真逆で、優しくて気遣いが出来る人なのに。僕はいいところも知ってるから、なんだかもったいないなあって思っちゃうよ」
「慰めてくれるのは燐だけだな……」
「私もそう思っていますけど?」
「……月凪もだったな」
「じゃあアタシも!」
月凪に続いて名乗りを上げた花葉にもありがたいなと思いつつ、HRまでの時間を雑談で潰すのだった。
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