36 奇妙な兵器の饗宴

 翔は王宮の財務報告書に目を通しながら、兵器開発費の高騰に驚愕していた。戦後復興に向けた財政改革を進めていた彼にとって、無駄遣いされている金額は看過できないものだった。特に、兵器開発に費やされている莫大な予算が目立った。

「これだけの資金があれば、国内の復興がもっと早まるのに……」と、翔は心の中で苦々しく思いながら、兵器研究所を視察することにした。


 その日、翔はフリーデリケに同行せず、単独で王国の研究所へ向かった。到着すると、研究所の主任技術者が熱心に出迎え、案内を始めた。主任の目は興奮に満ちており、まるで翔に自慢したくてたまらない様子だった。


「これが我々の最新作、V-3超遠距離砲です!」主任は誇らしげに大きな砲を指し示した。翔はその巨大な装置を一瞥し、眉をひそめた。


「確かに大きいですね……何ができるんですか?」と、冷静に尋ねる。


「この砲は、魔石の力を利用して、遥か彼方まで砲弾を飛ばすことができます!なんと、敵国の首都まで直接攻撃可能です!」

 主任は胸を張るが、翔はまだ納得していない様子で砲を眺めていた。


「……実戦で使えたことはありますか?」と、核心をつく質問を投げかける。


「いや、まだですが、今後の……」主任は少し言葉を濁しながら答えるが、翔はすでに興味を失っていた。


 次に案内されたのは、ストームウィング爆撃機だ。主任は再び熱心に説明を始める。「これも素晴らしい機体です!非常に高い爆弾搭載量と航続距離を誇ります!」


 翔は飛行機を見上げながら聞いていたが、すぐに1つの問題が目に入った。

「エンジンが4つありますが、どうやら過熱しやすい設計のようですね。」


「それは……ええ、過去にいくつかの事故が……」

 主任は困惑しながら認めるが、翔は再びため息をついた。

「それでは実戦では使い物にならないでしょう。」


「さらに、こちらをご覧ください!」主任が誇らしげに紹介したのは、自走式爆薬車という奇妙な兵器だった。巨大な車輪の間に爆薬が詰まれており、ロケットで推進されるというものだった。


「これが敵の防衛線を突破するための兵器です!」

 主任は熱く語るが、翔はその奇抜な見た目にあきれた表情を浮かべた。

 「……これ、本当に動くんですか?」


「実は実験中に暴走してしまいまして……制御が難しいのですが、次はうまくいくと!」

 主任の言葉に翔はもう我慢できず、肩を落とした。


 翔が自走式爆薬車の説明に半ば呆れ果てているところで、主任技術者は次の展示物へと誘った。翔は深いため息をつきながらも、ついていった。


「さて、こちらが対戦車マグネット爆薬です!」主任はまたもや誇らしげに紹介する。対戦車マグネット爆薬は対戦車用の爆薬で、軽量で簡単に戦車の下に潜り込むことができる設計だった。


「……これはどうやって使うんですか?」と、翔は尋ねた。


「非常に簡単です!この地雷は磁気に反応して爆発します。敵の戦車が近づくと、勝手に転がり込んでドカン!まさに戦場の隠れた兵士です!」主任はそう力説した。


「なるほど……それで、実戦でどのくらい成功しましたか?」と、翔は冷静に聞き返す。


「えー、実際には風で爆薬があちこちに転がってしまい、思わぬ場所で爆発することが多々ありまして……」主任がしどろもどろに説明するのを聞いて、翔は目をつむり、再びため息をついた。

 「それじゃ、敵に使う前に味方が全滅しそうですね。」


 主任は少し恥ずかしそうに頭をかきながら、

「まぁ、実用性にはまだ改善の余地があります……」と苦しそうに答えた。


「改善の余地、ですか。」翔は静かに主任を見つめ、次の兵器に興味を移した。


 次に案内されたのは「コウモリ爆弾」と呼ばれるもので、翔はその説明を聞いて、思わず笑いをこらえた。主任が興奮気味に説明を続ける。


「この爆弾はコウモリに小型の爆薬を取り付け、敵の都市に放つという画期的なアイデアです!コウモリは建物の隙間に入り込み、そこで爆弾を爆発させることで都市に大火災を引き起こします!」


 翔は、もう少し真剣な顔を保てなくなり、

「……コウモリに爆弾を?」と疑問を投げかけた。


「そうです!コウモリの自然の行動を利用するんです!これが成功すれば、敵都市は火の海です!」

 主任の顔は期待に満ちていたが、翔の目は冷ややかだった。


「それで、実験はどうだったんですか?」と、翔はもう呆れた声で尋ねた。


「実は……少し問題がありまして、コウモリがうまく制御できず、訓練中に我々の基地が燃えたということが……」主任は急に小さな声になった。


 翔はその説明を聞いて、もう何も言う気力がなくなった。

 ただ一言、「なぜコウモリなんですか?」とだけ言い残し、主任の案内を終わらせた。


 「こんなものに莫大な予算をかけているのか……」翔は思わずつぶやき、研究所の財務削減を考え始めた。


 しかし、その時、別の部屋に案内され、翔の目に飛び込んできたのは、全く異なる兵器だった。そこで見せられたのは「魔道機関銃」だ。翔はその小型ながらも強力な兵器に驚き、主任に説明を求めた。


「これは、魔力を利用して連続的に弾を発射する魔道機関銃です。使用者の魔力を増幅し、途切れることなく弾を撃ち続けられます。」主任は得意げに説明する。


「これこそ、実用的ですね。」翔は目を見開き、その機能性に感心した。


 続けて、「カラシニコフ銃」に似た自動小銃も紹介された。

 「こちらは、安価で大量生産が可能な自動小銃です。多少の汚れや魔力の低下にも耐えることができ、誰でも使えるよう設計されています。」


 翔はその実用性と量産可能な特性に感銘を受け、考えを改めた。

 「これなら、少ない予算でも大きな成果を上げられる。無駄な兵器開発を抑え、こういった実戦的な武器に予算を集中すべきだ。」


 翔は研究所の視察を終え、様々な奇妙な兵器にあきれていた。研究者たちが自信満々に発表する中、翔はついに言葉を発した。


「実用性がない兵器ばかりじゃないか。どうしてこんなに無駄なものを作り続けているんだ?」


 一人の研究者が顔を赤らめて答えた。「実は、研究が止まれば我々も前線に送られるのではないかと思い、開発を続けていたんです。だから、少しでも面白いアイデアを探そうとして…」


 翔は肩をすくめ、少し笑ってみせた。

「なるほど、戦争に行きたくないからってわけか。わかった、前線にならないようにフリーデリケには言っておく。」


「本当に?」研究者たちは驚きの表情を浮かべる。


「ただし、予算を減らすことにする。実用的な研究に時間をかけてくれ。実用的なものができれば、そこにはしっかり投資するから。」


 研究者たちはホッと胸を撫で下ろし、翔の言葉に明るい表情を見せた。

 「わかりました!実用的な兵器の開発に全力を尽くします!」


 翔は頷きながら、彼らが実際に役立つ兵器を生み出すことを期待した。

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