32 予想外のご招待
夜が更ける頃、翔は再びリサの店を訪れた。前回のアドバイスを実行し始めたリサの成果を確認するためだ。青い屋根の家からは、いつも通り温かな光が漏れていた。翔が扉をノックすると、リサがにこやかに迎え入れてくれる。
「来てくれてありがとう、翔!この前のアドバイス、実行してみたんだけど……」
リサは少し緊張した様子で話を切り出した。
二人がテーブルにつくと、リサは売上帳を広げる。
「おまけを減らしたら売り上げは少しずつ良くなってきたんだけど、やっぱり値上げに不満を言うお客さんもいて……おまけを控えると、リピーターが減っちゃってるみたいなんだ。」
「確かに、すぐには結果が出ないかもしれないけど、継続が大事だよ。利益が少しずつ出てるなら、まずは良い方向に向かってる。」
リサはため息をつきつつも、
「そうか……でも、これが続くか心配だよ。」と弱音を漏らした。
「次の段階に進もうか。店で売れ残ったり、もう売り物にできない果物が出たりしていないかな?」
リサは驚いた表情を浮かべる。
「あ、確かに。売れ残りの果物が傷んでしまって、いつもどうしようか悩んでたんだよね。」
翔はすかさず提案する。
「その果物、捨てるのはもったいないよね?加工して、新しい商品にするのはどうかな?」
「加工?」リサは不思議そうな顔で翔を見つめた。
「そう。例えば、ジャムにしてみるとかどうだろう。傷んだ部分を取り除いて、残りの果物を使えば、新しい商品になるし、無駄にもならない。」
リサは目を輝かせた。
「なるほど!ジャムなら日持ちもするし、お客さんにも喜ばれるかもしれないね。」
「小さな瓶に詰めて『特製ジャム』として売り出せば、リサの店の新しい目玉商品になるんじゃないかな。新しい挑戦にもなるし、お客さんも新しい商品を楽しみにしてくれるかも。」
「それはいいね!すぐにやってみるよ!」
リサはやる気を取り戻し、さっそく次の日から余った果物をジャムに加工し始めた。
数日後、リサは自分の作ったジャムを棚に並べ、お客さんに試してもらった。最初は反応がわからず不安だったが、思いがけず好評を得て、少しずつ売れ始める。リピーターも戻ってきて、店の雰囲気も活気づいてきた。
「翔、本当にありがとう!あんたのおかげで、新しいことに手を出せたよ!」リサは笑顔で感謝を伝えた。
「いやいや、リサが一生懸命やったから結果が出たんだよ。これからも色々やってみようよ。」
「うん!まだまだやれること、たくさんあるし、もっと工夫してみるよ!」
「これで、ちょっと生活にも余裕ができそうだよ。翔、本当に感謝してるんだ。」
リサは軽く笑って、翔の方に少し近づいた。ふっと息をついて、どこか意味ありげな声で続ける。
「お礼がしたくてさ……今夜、うちに来ないか?大したことはできないんだけど、亡くなった旦那にはいつも喜んでもらえてたからさ。翔も、どうかな……喜んでくれるといいんだけど?」
そう言って、リサは視線を絡ませながら、艶やかな笑みを浮かべる。
「え、あ、俺?」
翔は突然の誘いに戸惑いながらも、どぎまぎしてしまい、顔が赤くなるのを感じた。
リサはそんな翔の反応を楽しむかのように、体を少し前に乗り出し、彼の手に触れた。
「ねぇ……どう?私なりに精一杯するから……翔も、喜んでくれたら嬉しいな。」
彼女の声は甘く、誘うようにささやき、リサの指先が翔の肌にふれるたび、彼の心臓は一層早く鼓動を刻んだ。
「リ、リサ……」
翔は声がうまく出ない。何か返事をしなきゃと思うものの、リサの熱っぽい視線に飲み込まれそうだった。
「どうしたの?」リサはくすっと笑い、さらに距離を詰めて、耳元でささやいた。
「期待してくれてるのかな?」
その声は甘く、まるで誘惑そのもの。
翔は思わず息をのみ、なんとか平静を保とうとするも、心の中では何かが乱されていくのを感じていた。
リサの言葉一つ一つが、心をかき乱し、彼を困惑させる。
「え、ああ……喜んでうかがうよ。」
翔は必死に平静を装おうとしたが、どうしてもどぎまぎしてしまい、顔が熱くなるのを感じた。
リサはそんな彼の様子を楽しむように、にやりと微笑む。
「ふふ、翔って本当に可愛いね。そんなに緊張しなくていいんだよ。」
彼女の声には、甘い余韻が残っていた。
翔はさらに焦り、言葉が詰まる。
「いや、別に緊張してるわけじゃ……」
「じゃあ、腕によりをかけて作るね。」
リサはにっこり笑い、少し頬を染めながら言った。
翔はその言葉にどぎまぎしたまま、戸惑った表情を浮かべる。
「え?つ、作るって……?」
「夕飯だよ。あんた、何を想像してたの?」
リサは微笑みを浮かべ、いたずらっぽく翔を見つめる。
「夕飯……あ、そうだよね!そういう意味だよね!」
翔は一気に力が抜け、安堵のため息をついた。
「ふふ、見た目はあれだけど、味には自信があるんだ。旦那も喜んでくれたしね。」
リサは軽く肩をすくめながら、どこか懐かしむように言う。
「あぁ……そっか。それなら楽しみにしてるよ。」
翔はまだ少し気まずさを感じながらも、リサの明るい態度にほっとした表情を見せた。
「まったく、期待外れだった?」
リサが冗談ぽく尋ねると、翔は慌てて首を振る。
「いや、そんなことない!俺は……その、すごく楽しみだよ。」
リサはくすっと笑い、
「がっかりさせないようにしっかり作らないとね。じゃあ、夜にまた……楽しみにしててね。」
リサは小悪魔のようにウインクし、軽く翔の肩に触れてから、踵を返して店の中へと戻っていった。
翔は肩の力が抜けるように感じながら、苦笑いを浮かべる。
「なんだか、思いっきり翻弄されてるな……」
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