31 果物屋リサの商売レッスン

 翔は夜になり、リサの店へと向かった。角を曲がると、青い屋根の小さな家が目に入る。家の前には柔らかな光が漏れ、温かな雰囲気が漂っていた。

 手土産に少し良いワインを持った翔は、「ここか……」と心を躍らせつつ、リサの呼び鈴を鳴らす。


 リサがドアを開けると、彼女の顔には笑顔が広がっていた。

 「いらっしゃい!わざわざ悪いね。早速、店の売り上げや経費を見てもらおうと思ってるんだけど、いいかい?」

 

 部屋に入ると、小さなテーブルがあり、そこには帳簿や計算道具が並べられていた。リサはテーブルに腰を下ろし、翔に座るよう促す。

 「これが今月の売上だよ。」リサが帳簿を指さしながら言った。

 「でも、見てもよくわからないんだよね。」


 リサが帳簿を広げると、翔はそれをじっくりと見つめた。数分後、彼は眉をひそめながら言った。

 「あれ、仕入れより売値が安くなってる。」


 リサは少し驚いた表情で、「本当に?そんなつもりはなかったんだけど……」と返す。


 翔は続けて指摘した。

 「それに、買ってくれた人におまけをつけすぎてるんじゃない?その分、利益が減っているかもしれない。」


「そうか……おまけ、ついサービス精神でつけちゃうんだよね。お客さんに喜んでもらいたくて……」とリサは少し悩んだ表情を浮かべる。


 翔は優しく言った。「気持ちはわかるけど、商売としては続けられなくなっちゃうから、バランスを考えたほうがいい。」


「じゃあ、どうすればいいんだい?」とリサが尋ねる。


 翔は考え込む。

 「まずは、おまけの回数を減らすことから始めよう。それから、売値を見直して、少し上げるのも検討してみて。仕入れに対して妥当な価格に設定しないと、商売が成り立たなくなるから。」


「確かに……でも、もしお客さんが不満を持ったらどうしよう?」

 リサは不安そうに眉をひそめる。


 「それも大事な考えだけど、リサの店が続かなくなってしまうことも考えないとね。儲けがなければ、店を閉めることになってしまうし、リサも生活ができなくなる。」


 翔は続けて言う。

 「きっと、リサのお店が閉まってしまったら、リサのお店を贔屓にしているお客さんが逆に悲しむと思うんだ。」


 リサは少し驚いた表情を浮かべ、

 「お客さんが悲しむ……?」と聞き返す。


「そう。お客さんはリサがいるからここに来てくれてるんだろうけど、リサの店が続かなかったら、もうその場所がなくなっちゃう。そうなれば、リサにも会えなくなるし、今まで通ってくれたお客さんも行き場を失うよ。」


「確かに……私もお店をやめたくはない。お客さんとも話すのが好きだし、この場所がなくなるのは寂しいね……」


 「だからこそ、ちゃんと利益を出して、リサのお店を続けられるようにしよう。そうすればお客さんも、リサも幸せになれるんじゃないかな。」


「そうだね、ちゃんと考え直さなきゃ。」


 「まず、いくら以上売り上げないと利益が出ないか、これをしっかり計算してみよう。これが大事な第一歩なんだ。」


「どうやって計算すればいいの?」リサは眉を寄せ、まだ少し不安げな様子で問いかけた。


 翔は微笑みながら頷き、「簡単だよ。リサの商売には、まず大きく2つの費用があるんだ。固定費と変動費、この2つだよ」と説明する。


「固定費って場所代のことだね?」リサは少し身を乗り出し、興味を持ち始めた。


 「そうだよ。場所代や人件費、毎月変わらない費用が固定費だ」と説明を続けた。


 リサは一瞬考えて。

 「じゃあ、変動費っていうのは仕入れ代とか、売れた分だけかかる費用のこと?」と興味深そうに聞いた。


「その通り。だから、まずはこの2つを合わせて、いくら以上売れば赤字にならずに済むかを計算してみよう」


 リサは「そんなに計算して頭が痛くなりそうだね」と冗談を言いいながらも真剣に聞きながらメモを取り始めた。

 

 「じゃあ、その2つを合わせて計算すればいいのかな?」


「そうだ。まずはその固定費と変動費を足し合わせて、売らなきゃいけない最低限の金額を算出しよう。これが目標の売上になるんだ。」


 リサは少し自信がついたように頷き、

 「分かってきたかも!それで、次は何をすればいいの?」とさらに質問を重ねた。


「次は、損益分岐点を計算してみよう」と翔が提案する。


「損益分岐点?」リサは初めて聞く言葉に戸惑いながらも興味津々。


「うん、簡単に言うと、売り上げから変動費を引いたものが利益になるんだけど、まずはそれを計算してみるんだ。例えば、リンゴ1個を売るのにいくらかかって、そのリンゴを何個売ったら家賃が払えるかを考えるんだよ。」


 リサは「なるほど!」と、だんだんと話に納得し始めた。

 

「じゃあ、まずリサの果物の仕入れ値や家賃を基に、実際に計算してみようか」


 リサは紙を広げ、ペンを走らせながら一生懸命に計算を始めた。しばらくして、満足そうに顔を上げたが、すぐに戸惑った表情に戻った。

 「でも、実際にどうやってこれを毎日続ければいいの?」


「簡単だよ、手書きでもいいから、簡単な収支ノートを作ってみたらどうかな。毎日、いくら売り上げたか、そしていくら費用がかかったかを記録するだけでいい。そうすれば、数字を見ながら改善点が分かってくるはずだよ。」


 「そんなことしてみたことなかったけど、やってみる価値がありそう!」と、意欲的な顔を見せた。


 翔は頷きながら、

 「そうだね、数字にしてみると、どこに無駄があるのか、どうしたらもっと利益を上げられるのかが見えてくるんだ」


 「翔、本当にありがとう。これからもっとしっかりとした商売をやってみるよ!」


 リサは笑顔を見せた。


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