第6章: 迫りくる対立の序章
33 揺れる同盟の選択
フリーデリケと翔は、隣国ノルデン王国の首都にある豪奢な宮殿に到着した。会議室は壮麗なシャンデリアに照らされ、壁には歴史的な戦争や平和条約を描いた絵が飾られている。アルバナ王国とノルデン王国の代表者たちが長いテーブルを囲んで座り、部屋には重い空気が漂っていた。
翔はフリーデリケの隣に控え、彼女の指示を待っていた。今日の交渉は、ただの外交ではない。ゼルトンとの不可侵条約を締結したばかりのアルバナ王国は、さらなる安定と繁栄を求め、ノルデン王国や他の強国との同盟を強化するための重要な場に立っていた。
「まずは経済協力についてお話しさせていただきます。」
フリーデリケの力強い声が会議室に響き渡る。彼女は冷静な表情を崩さず、話の主導権を握り、翔に視線を送った。
「では、具体的な提案を。」翔は少し緊張しつつも、自信を持って話を始めた。「アルバナ王国は、安定した交易路の確保、新たな市場の開拓、そしてお互いの経済成長を促進するための協定を提案いたします。特に、戦後の復興に必要な物資や資源の輸出入を通じて、ノルデン王国に大きな利益をもたらすことができると考えています。」
ノルデン王は翔の言葉に耳を傾け、興味を示した。「確かに、それは我々にとって魅力的な提案だ。戦後の復興には資源が不可欠だ。安定した供給を期待できるなら、経済協力には大いに賛成だ。」
翔はノルデン王の反応を見て、さらに自信を深めた。「具体的には、アルバナ王国は石炭や鉄鉱石の輸出を増加させ、ノルデン王国からは海産物や農作物を輸入する形で貿易を拡大させたいと考えています。これにより、双方の経済が安定し、同時に貿易路の安全保障も強化されるでしょう。」
フリーデリケは翔の提案を静かに見守りながらも、次に何が来るかを察知していた。ノルデン側の代表者たちが交渉の本題を持ち出す準備を進めているのを感じていた。
ノルデン王の側近が声を上げた。
「貿易協定については素晴らしい提案だ。しかし、もう一つ重要な話題があります。ゼルトンを中心とした共産主義勢力が着実に拡大しています。これに対抗するためには、単なる経済協力だけでは不十分です。私たちは、軍事的な連携も必要だと考えています。」
その言葉が放たれると、部屋の雰囲気が一変した。重苦しい沈黙が一瞬の間を埋めた。
フリーデリケは表情を崩さずに返答した。
「軍事同盟の話は、もちろん重要です。しかし、我々はまず経済の安定を基盤にした協力体制を整えることが必要だと考えています。」
冷静にそう言いながらも、彼女の中には微かな違和感が広がっていた。
翔は、その違和感をはっきりと感じ取っていた。軍事同盟の提案が出た瞬間、心の中で警鐘が鳴り響いた。これは単なる外交交渉ではなく、将来的な戦争への足掛かりではないかという思いが、彼の頭をよぎった。
彼は、フリーデリケに軽く目をやり、彼女が同じ懸念を抱いているかどうか探ろうとしたが、彼女の顔には一切の迷いが表れていなかった。プロフェッショナルとしての彼女の姿勢は揺るぎない。
しかし、翔は軍事同盟が大規模な戦争の引き金となるリスクを強く感じていた。このまま進むべきか、それとも一歩引いて慎重になるべきか、彼は深い葛藤に包まれていた。
交渉の最後、ノルデン王は軍事同盟の締結を強く求めた。フリーデリケは一瞬迷ったが、冷静に考えをまとめ、翔の提案した経済協力体制の話を再度強調した。
「軍事的な協力は今後の課題として検討しましょう。ただ、現時点では経済的な協力を基盤にして関係を強化していくことが最優先です。」
だが、彼女もアルバナ王国の安全保障を考える上で、全く軍事同盟を無視することはできなかった。最終的に、部分的な軍事協力を約束することで合意に至った。
交渉を終え、宮殿を後にした二人は、夜の静かな街を歩いていた。星が瞬く夜空の下、冷たい風が頬をかすめる。翔は心の中に抱えていた疑念を押さえつけることができず、静かに切り出した。
「本当に軍事同盟が必要なんだろうか?」
翔は、言葉を慎重に選びながら問いかけた。
フリーデリケは立ち止まり、彼に向き直る。
「私も、同じことを考えていました。軍事同盟が将来的に大きな災厄を招く可能性は否定できない。でも、今の情勢を考えると、国を守るためにはどうしても必要な選択でした。」
その声には、わずかな迷いが含まれていたが、同時に強い決意も感じられた。
翔の心に、その迷いは重く響いた。だが、彼はそれ以上何も言わず、フリーデリケの判断を尊重することにした。しかし、彼の胸中には深まる不安が押し寄せていた。安全保障の同盟はすでに十数か国に広がり、この強固な連携を見たゼルトンも、対抗するように別の国々と軍事的な同盟を結ぶだろう。こうして、世界は2つの大きな陣営に分かれ、やがてそれは避けられない対立へと発展する危険があった。
彼らは再び歩き出した。冷たい夜風が静かな街道を吹き抜け、二人の背中を押すように進む。
「このまま進めば、世界はさらに二極化し、やがて大戦に突き進むかもしれない」
と、翔は内心で考えていた。未来が不安に包まれ、どうすればその災厄を避けられるのか、答えが見つからなかった。
やがて、二人はアルバナ王国への帰国の準備を整え始める。国内での復興を進めつつ、国際的な対応にも備えなければならない。だが翔の心には、軍事的な選択が引き起こすであろう未来の不安と、国を守りながら世界をどう導くべきかという課題が重くのしかかっていた。
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