28 希望の種をまく日

 翔の財政改革が着実に効果を上げ、国の財源は徐々に回復していった。これにより、王国の経済は安定し、貴族たちが握っていた富と権力は次第に弱まっていった。中央集権化が進み、国全体がより効率的に統治されるようになり、王国の権力が以前にも増して強化された。


 しかし、翔はそこで満足することなく、さらに貴族たちに追い打ちをかけるように次の改革に乗り出した。彼の次なる一手は、農業の復興と食糧供給の安定化だ。戦争で荒廃した土地を再び肥沃なものとし、農民たちが再び力を取り戻せるよう支援を行った。


 まず、農業振興プログラムを立ち上げ、戦争で荒廃した土地の再生を支援することに重点を置いた。農民たちには道具や種子が配布され、国家資金を使って灌漑施設や耕作地のインフラ再建が行われた。この取り組みによって、食糧自給率が向上し、国全体が安定した供給を受けられるようになった。

 次に、土地改革が進められた。これにより、貴族が支配していた広大な土地の一部を国が管理することとなった。そして、貧しい農民にはその土地の一部が分配され、より多くの農民が生産活動に従事できるようになった。また、農業協同組合が設立され、小規模農民たちが共同で生産効率を向上させることが可能となり、農業の生産性が飛躍的に向上した。


 さらに、市場安定化政策も導入された。これにより、政府が食料供給を管理し、必要に応じて価格調整や物資の配給を行うことで、食糧価格の急激な変動を抑えることができた。この政策によって、食料が不足した時期でも民衆が安定した生活を送れるようになり、政府への信頼が一層高まった。


「この改革により、食糧供給が安定すれば、国民全体が恩恵を受けることになる」と、翔は自信を持ってフリーデリケに説明した。「貴族たちの支配力はさらに削がれ、農民たちは自分の土地で豊かさを築けるようになる。」


 フリーデリケは感銘を受けた表情で頷いた。「これで貴族の影響力が一層薄れ、王国の力が強化されるでしょうね。貴族に頼らずとも、国民の力で国を支えられるようになる。」


 翔は満足げに微笑んだ。

 「これが真の中央集権だ。民衆のために、貴族の特権を削ぎ落とし、国全体を復興させる。それが我々の目指す未来だ。」


 この農業改革により、王国は中央集権化をさらに推進し、安定した食糧供給と民衆の支持を得ることで、王国の権力基盤はますます強固なものとなっていった。



                  ◇



 豪華なサロンに集まった貴族たちは、慎重に言葉を選びながらも、圧倒的な緊張感に包まれていた。改革が進むにつれて、彼らの特権や財産が徐々に侵食されつつあることに気づいていたが、それを正面から抗う勇気はなかった。


「ルドルフ伯爵の例を見た者なら、誰もが理解しているだろう。反抗すれば、あのように容赦なく叩き潰されるだけだ」と、ある貴族が声を潜めながら言った。「彼は戦争で利益を得ていたことを暴かれ、財産を没収されただけではなく、貴族としての威厳さえも奪われた。我々も、同じ道を歩むことになるかもしれない。」


 この言葉に、他の貴族たちは黙り込んだ。ルドルフ伯爵は、かつては王国の中でも有力な人物であり、その権勢は揺るぎないものと信じられていた。しかし、翔は彼の暗部を突き、その地位を徹底的に崩壊させた。翔に逆らう者には、同じ運命が待っているのだという現実が、彼らを無力化していた。

「このまま翔の好きにさせて良いものか?」と、若い貴族が苛立ちをあらわにする。

「我々の土地が国に管理され、農民に分配される。これでは我々の存在意義そのものが失われるではないか!」


 しかし、年配の貴族が冷静に答える。

 「反抗したところで、どうなる?ルドルフ伯爵のように追い詰められ、全てを失うのが関の山だ。我々には選択肢がないのだ。今は、彼の改革を受け入れるしかない。」


 その言葉には、現実を前にした諦めが滲んでいた。かつては誇り高き貴族たちであったが、今や彼らは無力な存在になりつつあった。反抗すれば、自らの滅亡を招くだけであり、何もせずにいれば、改革の波に飲み込まれていくしかない。


「だが、このままでは我々はただの操り人形になってしまう」と、別の貴族が言った。

「何か策はないのか?せめて、少しでも我々の権力を守るために。」


「策などあればとっくに講じている」と、重々しい声が返ってきた。

「今は、ただ忍耐強く待つしかない。翔がどこかで失敗する、その時を狙うのだ。だが、それまでは、表向きは従順に振る舞うしかない。」



 かつて王国を牛耳っていた貴族たちは、今や自分たちの力が地に落ちたことを痛感していた。改革の波に飲み込まれ、いずれは歴史の舞台から消えてしまうのではないかという不安が、彼らの心を蝕んでいた。表面上は改革を受け入れ、協力する姿勢を示しながらも、内心では忸怩たる思いを抱えていた。翔が進める中央集権化と農業改革が、貴族たちの権力を弱体化させ、彼らの影響力を削いでいくのは明らかだった。


「受け入れるしかないか……」と、貴族の一人が静かに呟いた。

「だが、いつか必ず反撃の機会が来る。それまで、我々は耐えねばならない。」


 貴族たちは静かに頷き、王国の新しい秩序に従うしかないことを悟っていた。ルドルフ伯爵の末路を目の当たりにした今、彼らには反抗する勇気はなかった。彼らは、かつての栄光を奪われ、無力な存在に成り下がったことに激しい憤りを感じていた。いつか必ず、この屈辱を晴らす時が来ることを信じて、彼らは静かにその時を待っていた。


「反撃の機会は必ず来る。それまでは、耐え、見守るしかない」

 と、彼らは心の中で誓い合いながら、改革の波に飲み込まれていく運命を静かに受け入れた。

                    


                  ◇



 古びた家の前に集まった農民たちは、改めて翔の政策について話し合っていた。小さな村の広場には、顔を日焼けさせた農民たちが集まり、その目には少しの希望と大きな不安が浮かんでいた。


「この改革が成功すれば、俺たちの子供たちが飢えることなく、お腹いっぱいご飯が食べられるようになるかもしれない。」

 

「長い間、土地が荒れ果てていたが、灌漑施設が整備されれば、昔のように豊かな収穫が戻ってくるかもしれん。」


 彼の言葉に、他の農民たちは頷いた。確かに、長い間の戦乱で荒れ果てた土地に、再び命が吹き込まれるかもしれないという希望はあった。しかし、それと同時に、不安もぬぐい去れない。


「だが、貴族の土地がどうなるのか、まだ分からないじゃないか?」

「一部を俺たちに分け与えるって話だが、本当にそんなことができるのか?貴族がそんなに簡単に手放すとは思えない。」

「確かに、貴族どもが土地を渡すのは簡単なことじゃないだろう。しかし、反抗すれば彼らも厳しい罰を受けることになる。俺たちが期待できるのは、彼らが反抗できない状況に追い込まれているということだ。」

 その時、農具を抱えた女性農民が口を開いた。

「私は期待しているよ。新しい道具や種子を配ってくれるっていうし、少しでもまともな収穫が得られれば、家族の食べるものも安定する。今までの生活がどれだけ苦しかったか、ようやく終わるかもしれない。」


 彼女の言葉に、他の農民たちも頷いた。彼らは長い間、貧しい生活に耐えてきた。食糧が足りず、日々の暮らしは厳しかった。改革が成功すれば、その苦しみが少しでも和らぐかもしれないという希望は、彼らにとって大きな救いだった。

「でも、ただ待つだけじゃ何も変わらないよな」と、別の若い農民がつぶやいた。

「俺たちも協力して、しっかりと農業を復興させないと。このチャンスを逃したら、また昔のままだ。」

 

 翔の農業改革の一環として設立される農業協同組合は、農民たちにとっては初めての経験だった。小規模農民が力を合わせて生産性を上げるための組織であり、彼らにとっては大きな変化だった。


「協同組合なら、俺たちのような小さな農民でも、大きな力になることができる。みんなで力を合わせれば、きっと豊かな村を作れるはずだ。」

「一人じゃどうしようもなかった問題も、みんなで力を合わせれば解決できるかもしれん。」


 その言葉に、若い農民たちも希望を感じた。協同組合がうまく機能すれば、収穫も安定し、彼らの生活も少しずつ改善されるはずだ。農業を再興するという夢が、少しずつ現実味を帯びてきた。



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