26 勝者の街と静かなる約束

 ゼルトンの混乱が頂点に達し、もはや戦争を続ける余裕を失ったゼルトンは、オステリアから撤退を余儀なくされた。これにより、ゼルトンの支援を失ったオステリアの反政府軍は、補給線断絶の危機に陥り、戦況は一変した。

 アルバナ王国軍は、翔の緻密な兵站管理の下、物資を効率的に供給し、戦略的な配置を敷くことで、反政府軍を圧倒した。


「反政府軍は、もはや風前の灯火です。我々の軍は、すでにオステリア国内での優位性を確立しました。」

 フリーデリケは、地図を指しながら冷静に報告した。

「補給が途絶え、士気も低下しています。これ以上の抵抗は不可能でしょう。」


 「予想通りだな。」

 翔は少し息を吐き、資料を机に置いた。

 「ゼルトンがいなくなれば、彼らは戦える術を失う。補給がなければ、どんな軍も長くは持たない。」


「そうですね。ゼルトンは完全に内部から崩壊しました。暴動が長引く限り、もう戦争には戻れません。」

 翔は頷き

「勝利は近い。しかし、油断は禁物だ。」と告げた。


 アルバナ王国は、見事な勝利を収め、オステリアをその勢力下に置いた。

 街は、ようやく訪れた平和の息吹に包まれ、人々は互いの手を握りしめ、喜びを分かち合っていた。

 しかし、翔の心はすでに次の目標へと向かっていた。


「この勝利を無駄にしてはならない。」フリーデリケは、翔の言葉に同意するように頷いた。「戦後の混乱を収束させ、安定した国を築くことが、私たちの使命です。」


 翔は窓の外を見つめ、静かに語り始めた。

 「これからが本当の戦いだ。復興と改革、そして新たな時代の到来を告げる鐘を鳴らす時が来た。」


 


 街では勝利の喜びが爆発していた。広場には色とりどりの旗が掲げられ、人々が踊り、歌い、笑顔で溢れている。市場は活気に満ち、屋台からは美味しそうな香りが漂い、子供たちの笑い声が響いていた。騎士たちは馬に乗り、堂々とした姿で街を巡回し、勝利を誇っていた。城壁の上では、兵士たちが勝利の象徴として、巨大な旗を高く掲げていた。


「勝ったぞ!私たちの勝利だ!」と叫ぶ若者の声が響くと、周囲の人々は歓声を上げた。「やった!戦争が終わった!もう恐れるものはない!」と喜びを分かち合う。


「これで私たちの生活も戻る!」と婦人たちが笑顔で手を叩き、「明日からまた平和な日々が始まるわ!」と互いに抱き合っている。老人たちも、目を潤ませながら若者たちの様子を見守り、「若い者たちが守ってくれたおかげだ」と感謝の言葉を漏らしていた。


 王宮内の一室でも、ささやかな祝杯が行われていた。

 フリーデリケは、銀のトレイにワインのボトルを手に取り、翔の前に差し出した。

 「今日は、あなたの功績を祝うべき日です。乾杯しましょう。」

 翔は少し微笑み、フリーデリケが注いだワインを手に取る。

 「俺一人の力ではない。だが、少しだけその言葉に甘える か。」

 2人は静かにグラスを合わせ、音が室内に響く。外の騒がしい歓声とは対照的に、彼らの間には穏やかな時間が流れていた。


「あなたがいたからこそ、この勝利が得られたんです。」

 フリーデリケは真剣な眼差しで言った。


 翔は一瞬だけ驚いたような表情を見せ、次の瞬間、彼女の眼差しに引き込まれた。

 「君が支えてくれたから、俺はここまでやれたんだ。感謝してる。」

 フリーデリケは一歩近づき、柔らかく微笑んだ。

 「それでも、あなたが決断を下したからこそ、この結果があるのです。」

 翔はその言葉に黙って頷き、ワインのグラスを置いた。そして、彼女の手をそっと取った。2人の距離が縮まり、部屋の中は静寂に包まれる。


「ありがとうフリーデ。」

 翔は、フリーデリケの頬に軽く手を添え、優しく顔を近づけた。

 フリーデリケは目を閉じ、そして、2人の唇がそっと触れ合う。ワインの香りが、温かな空気と共に彼らを包み込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る