第31話

「…あの男、相変わらずね。」




言いながら、私の顔をのぞき込む、華城さん。




「・・宮坂、あんたもね。」




顔赤いわよ?なんて言いながら鏡を差し出してきた。





「わ、わかってますよ。」




熱を持った頬を手で覆う。



バレてない、と思ってた。お弁当。









”なんか、今日おかず多いな。”


”お腹がすいていたので…。”


”・・・ふーん。”












(…あれ。)


(…ばれてた…?)





あの人のことだから気づいた上で、黙ってたのか、な。



佐々木さんの視線を辿り、お弁当を確認した華城さんは、







「ねえ、あんたたちって、本当に付き合ってないの?」






華城さんは、なんとも曖昧な私たちの関係を知る唯一の人。






「付き合って、ないですよ。」





何度も言い聞かせてきた言葉。


(付き合って、ない…)






「あいつとは、同期だけど。少なくとも、ただの教育係ってだけで誰かの傍に何年もいるような優しいやつじゃないわよ。」




「他に、誰かいるようにも見えないし。」





(そんなの、わかってる。)



佐々木さんは、そんな不誠実な人じゃない。


辛いとき、ずっとそばにいてくれたんだから。







「・・あんたも、もう引き摺ってるようには見えないわよ。あいつに夢中って顔してる。」




「・・・・夢中。」



(…それは、自覚なかった。)




「ごめん、余計なこと言ったわ。まあ、ゆっくり考えて。

あんたが静かだと怖いから。」






(え。それは、)





「…ショックです・・。私、いつも静かですよ、おしとやかです。」




「・・そうそう、あんたは訳わかんないこと言ってるのが一番よ。」




「…訳わかんない・・これって、褒められて、る?」




「うん、うん。そんなあんたを私は気に入ってるわ。」




「私も、華城さん好きですよ!両想いですねー!」




「はいはい。じゃあ、またお昼ね。」







ひらひらと、手を適当に振って去っていった。




(何とも、複雑な…)








と、とりあえず、佐々木さんからの資料に目を通そう。




・・・・うん。

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