第11話 脱出できない森

翌朝、僕たちは森の奥へと歩みを進めていた。戦闘は起こらず、なんの気配もないまま順調に進んでいた

「……本当におかしすぎる。魔物の気配どころか死体すら見つからない」

「体力を温存できていいじゃないですか」

「いや、逆に良くないんだ。危険度が分からないままこの森を進むのは自殺行為に近い」

その言葉に、自然と全員の足が止まる

「……レオンの言う通り、このまま進むのは危険かもしれません。せっかく食料を買い込んだ意味がなくなりますが、命には代えられません」

アルラーが眉をひそめながら口を開いた

「でも私は反対。このまま引き下がるなんてできない。ダンジョン化の原因を突き止めないと……気が済まない」

「アルラーのいうことも分かる。だが、このままいくのも危険だと分かるだろ?」

「それはそうだけど……」

ガサ……ガサッ……

茂みが音を立て、全員の意識がそちらへ向いた

「誰だ!」

音はなく、ただ静寂だけが帰ってきた

レオンが警戒しながら茂みに近づき、中を覗いた瞬間――

「……っ!」

人の頭――それも酷い損傷を受けた無残なもの。顔の皮ははがされ、眼球がなく、顎もなかった

「どうしたんだ?レオン…」

「ヒロトは見てはダメだ。耐性を…もっていないから……」

その言葉に、弘人は察した。レオンの足元に酷い何かがあるということに

「……みんな、帰還しよう。全力で走れば夜までには帰れるはずだ」

その言葉は普段と同じなのに妙な重さが含まれていた。アルラーもなにも言わず頷いていた


「なんで抜け出せないんだ……!」

走り始めて数十分。積んだ石を目印に帰還を試みていた

「はあ…はあ…さすがに…休憩を……」

「……ハンスの体力を考慮してなかった、すまない」

「だ、大丈夫です……」

肩で息をしながら、ハンスは必死にそう返した

一度小休憩を取ろうと全員立ち止まる

「積み上げた石があるのになぜか帰れない。それに、だんだんと数が少なくなっている」

「召喚獣…グラスイーグルを呼ぶわ」


グラスイーグル

身体は草のように緑でありスピードと偵察に特化した召喚獣。自然界には存在しない


「さあ、あたりを偵察してちょうだい」

グラスイーグルは空高く飛び、すぐに見えなくなった

しばらく待っているとグラスイーグルが戻り、自分たちの上を旋回していた

「…出口を見つけたみたい。行きましょ」


グラスイーグルに導かれるまま歩いている。しかし、歩けど歩けど景色は変わらず、積んだ石もすでに消えていた

「道は、合っていたはずなのに……」

ふと目に留まった開けた一角。そこには、確かに自分たちが昨晩野営した形跡──積んだ石、かまどの灰、そして踏み固められた土が残っていた

「なんで……」

「おかしい……いや、あり得ない。もし戻ってきたのだとしたら、ほぼ完璧な円を描いて歩いたってことになる。だがそんな動きはしていない……」

その時、遠くから鳴き声…叫び声のようにも聞こえる声が聞こえた

「今の声って、人か…?」

「分からない。ただ言えるのは、僕たちはここから脱出できないかもしれないということだ…」

「グラスイーグル…降りてきて…」

アルラーの呼びかけに応じず、旋回を繰り返す

「…グラスイーグル?」

瞬間、グラスイーグルの体が歪み、羽は黒く爛れ、草のようだった体毛は灰のように崩れ落ちた。そして、異形と化した”それ”は、空高く舞い上がる

「なッ…!グラスイーグルが…!」

高く飛んだ”それ”は、標的をアルラーに定め、急降下した

「まz「ロックシールド!」

当たるギリギリで防御に成功した。グラスイーグルだった”それ”は当たった瞬間に爆発のようなものが発生していた

アルラーが地面に座り込む

「間に合いました…無事で良かったです…」

アルラーは放心しており、しばらく受け答えが出来ない状態だった

またあたりがいきなり暗くなる

「…夜までに抜け出したかったが仕方がない。また野営だな……」

そしてその夜

遠く、深い森の影から、彼らを見つめる“何か”がいた──誰も、その視線に気付かぬまま、静かに眠りに落ちていった

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