第12話 異常な森

翌日の早朝、僕たちはこの森から逃げるために小走りで動いていた

やはり魔物の気配はなく、時折聞こえる声だけがその存在をかろうじて証明していた

「よし、一旦休憩しよう。ハンス、どれくらいで回復できる?」

「ほんの、少しで…大丈夫です……」

ハンスの額には汗が滲み、昨日の疲れがまだ体に残っているのが分かった

「……昨日のあれは何だったの…私の、召喚獣が……」

アルラーも先日の出来事がまだ引っかかっているようだ

「いくら考えたって仕方ない。まずはこの森を抜けないと」

その言葉を皮切りに、僕たちは再び走り出した


しかし――約2時間後、僕たちはまたしても、あの場所へ戻ってきていた

「…っくそ!なんでまた…」

「原理は分かりませんが、我々冒険者を本当に出したくないようですね」

「あーもう!イライラしてくるわこの森!破壊魔法で辺り一帯消し炭にしようかしら!」

「やめてくれアルラー。結界を張っても僕たちが巻き添えになる」

「くッ…じゃあどうすればいいのよ!この森の木は硬いし魔法耐性も高いし!破壊魔法ぐらいじゃないと道は切り開けないのよ!」

言い合いの最中、突然茂みが揺れ、冒険者が飛び出してきた

「頼む!助けてくれ!」

「なにがあった?!」

「……“あれ”は、化け物だ……攻撃は防がれ、当たってもすぐ再生する。しかも速い……」

「それだけじゃない……あいつは暗闇の中でも俺たちを見てやがる……急所ばかり、的確に……あれは、人じゃない……」

そういうと彼は、うずくまりすすり泣き始めた

「……動けるようになるまで待とう。君が仲間を助けたいなら、僕らは手を貸す」

レオンがそう言い、僕たちに視線を向ける

「どうするみんな」

「ちょうどいいわ。私、そのバケモノにイライラをぶつけてくる」

「負傷者がいるなら、私も治癒で援護します」

「俺も……放っておけない」

全員が答えた後、レオンがふっと笑った

「だそうだ。僕たちは君を全力で助ける。案内してくれ」

「ありがとう……本当に、ありがとう……」

彼が立ち上がり、背を向けたとたん、レオンの剣が彼の首を切り裂いた

「うおおおおい!なにしてんだレオン!?」

「こいつは人じゃない、シェイプシフターだ。証拠に……」

倒れた身体をぐいと転がすと、へそのあたりから胸元まで、大きく裂けたような口が現れていた。そこには鋭い歯が何列にも並び、喉の奥が蠢いていた

「……なんでわかったの?」

「血の匂いと、目だね。僕たちみたいな実戦経験のある冒険者なら、すぐに気づけるさ」


シェイプシフター

人の姿に化け、人を食い殺す魔物。危険度自体は低いが、話し方や目、その他すべてが人と酷似しているためある程度慣れないと見破れない


「ちぇっ、せっかく八つ当たりできるやつが来たのに…」

「……私も、まだまだ未熟です。完全に見抜けませんでした」

レオンはシェイプシフターの装備をちらりと見て言った

「そもそも、こいつはギルドで見たことがないし、装備も軽すぎた。状況が状況だし、それだけでも十分怪しい」

「怪しいだけでいきなり切るのは違うんじゃ……」

すると、また遠くから声が聞こえる。しかし先日よりは近いような感じがした

獣の鳴き声なのか、人の叫び声なのか分からない。ただ分かるのは、この森はすでに”なにか”の縄張りであり、そいつが僕らを出さないようにしていることだけだ

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