第5話 カレーって知ってる?

 夕飯の時間になり、ロビーの食堂へ行く。

 付与魔法付きのヘアブラシ(ドライヤー)を返し、案内された席へ着く。


「今日のメニューはオークの角煮とパンとサラダよ。サラダにはこのドレッシングをかけてね」


「ありがとうございます。美味しそうですね!昼のチェックインの時にカレーの匂いがしたので、夕飯はカレーだと思ってましたよー」


「ええ、まあ、そうね‥」


(あれ?言っちゃいけないこと言っちゃった?)

 気まずい雰囲気になってしまった。

 

「じゃ、じゃあ、ごゆっくり!」

 そそくさと厨房の方へ戻っていってしまった。


(ちょっとカレーの事言っただけなのに…)

 気を取り直して食事へ手をつける。

 初めてのオーク肉、異世界っぽいなと思いながらおそるおそる口に運ぶ。

 丁度良い脂で凄く美味しい。こんなに美味しい角煮初めて!

 そういえば、気にしてなかったけど、お昼に食べた串焼きってなんのお肉だったんだろう?


 ゆっくり味わいながらご飯を食べていると、アビーさんが来て、

「夕飯の後時間あるかしら?」


 え?何?と思いつつも大丈夫と伝えると、

「厨房の横に個室があって、鍵を開けておくから食べ終わったらそこに居てもらっていいかしら?」


「わ、分かりました」

 急な個室への案内に動揺する。やっぱり何かしてしまったのだろうか?


 ご飯を食べ終わり、個室へ行く。

 ドキドキしながら待っていると、奥さんがお茶を持って入ってきた。


「さっきのカレーの話だけど、カレーって知ってる?食べたことあるの?」


「?知ってますし食べたことありますけど、それがなんでしょうか?」


「後、もう1つ聞きたいこともあってこの宿のシュンカシュウトウって漢字でかける?」


「え?漢字ですか。書けますけど、それが何か?」


 ちょっと何言ってるか良く分からない質問してくるなと思っていると、


「ニホンって国知ってる?」


「ええええええ!日本知ってるんですか!?」


 驚きながら聞き返すと、


「私の祖母が日本人なの」


 ただただ驚いてると、アビーさんが説明してくれた。


 この世界ではたまに異世界人がやって来るらしく、それが自分のおばあちゃんもそうだったらしい。

 そこで日本の話を聞いたりしてて日本を知っている。

 おばあちゃんは日本人がこの世界に来る事もあるかもしれないとこの宿を作ったそう。

 名前も春夏秋冬にし日本人なら分かる名前にしたみたい。

 そしてこの宿では昼ご飯にカレーを作り、匂いで気づく人には気付くようしていたようだ。

 おばあちゃんはもう亡くなっているがおばあちゃんがやってた日本人探しのためにカレーも続けていたそう。

 そしておばあちゃんは日本から来た人がいたら助けてあげて欲しいと言っていたそう。


 なんと!まさか!の事が急に起きた。

 そしておばあちゃんが書いていた、日本人が来たら渡してほしいと言う本を見せて貰う事になった。


旧姓:山田 洋子 現在はヨーコと名乗っている私は2012年にこの世界に来てしまった。38歳の時。

日本で主婦をしていて、夕飯の買い出しに行った帰り道に急にこの町の近くの森にいた。スーパーで買ったものを持ってこの地に立っていたの。お財布とスマホも持っていたわ。

・・・・・


(ヨーコさんも急にこの世界に来てたみたいだけど、年数が合わない。私は2022年にそれが起こったから10年しか日本では時間経っていないのに…?)


 読み進めると、まず孤児院で働き、その後料理屋を開いてから宿屋を始めたそう。

 料理屋を開いた後に養子を貰ったみたいでこの世界では結婚はしなかったそう。

 仕事をしながら日本人を探したり、帰り方を探したりしていた。

 帰り方は見つからなかったけど、何人かの日本人の痕跡を見つけていたそう。

 まず、孤児院も日本人が作ってたしこの町自体も日本人が作っていた。

 ヨーコさんが来た時にはどちらも亡くなっていたので、話を少し聞く程度だったみたい。

 後、日本人だっていうことは隠すようにと書かれていて、異世界人だと何か有用な物を持っていたり知識があったりするから貴族などに目をつけられてしまうそう。

 攫われたり、監禁されたり。

 ただこの町では何人もの異世界人がここにいた事からそこまで危なくは無いそう。

 それでも時代は変わっていくから気をつけるように。

 この町の周りは魔道具がドロップするダンジョンが近くに2つあるらしく、魔道具が色々とあるそうだが、スマホに似たものは無いそうでスマホさえ隠しておけば、割と大丈夫なようだ。

 



 ある程度読んで、ため息をつく。

 いろいろな急展開があり、頭が追いつかない。

 そもそも、今日この世界に来たばっかりだし。


「もうこんな時間ですし、また明日、本読まれますか?」


「そうしてもいいですか?急な事でどうしたらいいのか‥お話も聞いて良いでしょうか?」


「もちろんですよ。また明日朝声かけて下さいね。」



 部屋に戻ってため息一つ。

(ふー。今日は疲れたな。帰り方は見つかってないっぽいし、他の人の事も知りたい。でもその前にここでの仕事も探さないとだし、生き方も探さないと。あっ。連泊するって伝え忘れた。明日でいいか。)


 なかなか寝付けなかった。

 答えも出ないのにずっと考えてしまう。


 今日はいろんな事があったなー。

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