第19話

 優が急に勢いよく立ち上がったから、私は驚いて肩をビクッと震わせて、「もう何?」と少し怒った。

「いや……。早く行かないと間に合わなくねぇか?」

「ん? 間に合わないって何に?」

「全校朝会に、だ」

「あーっ!!」

「やばいよな……」

 優が焦燥感を含んだ声で言う。

「うんやばい!!」

 今の状況を理解した私は叫ぶ。今すぐ体育館に向かわなければ全校朝会に遅刻してしまう。後方からそ〜っと先生たちに気づかれないように静かに入っていって、静かに座らなければ。もし、担任の槻山つきやま先生に気づかれたら、小声で注意されるかもしれない。私は学校では優等生なのに、学校でも優等生じゃなくなったらおしまいじゃないか。

「もう何のんびりお喋りしてんの! 放課後じゃないんだからさぁ!!」

「そっ、それはお互い様だろ! 俺の方が沢山喋ったけども!!」

「うるさい! 優の気がちょっとでも楽になるためだもんそれは許す!! ただの八つ当たりですごめんなさい!!」

「ありがとう、俺も許す許す」

「あら優しい」

「当然だろ。……よし。じゃあ急ぐから……、」

 優は真顔で左手を差し出してきた。戸惑って「えっ?」と声を上げると優は無言で掴んできた。

「……えーと。何で十六歳でしかも動物園でもないのに手を繋がないといけないの?」

 寺北家と鍋岡家で車で動物園に遊びに行った時に、私の母親と優のお母さんに頼まれた優は私の手を引いてくれた。でも、ここは学校の敷地内で私と優以外人っ子一人いないから人混みで逸れる心配はない。手を繋ぐ理由が分からない。

「そうだな……。これは、」

 優は階段に視線を落とした。

「うん」

「お、お前が足が遅いから仕方なく、だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る