第9話

 再び肩を叩かれる感触がして反射的に振り返る。振り返った先には一回目よりも心配そうな表情を浮かべている灯莉が居て、下敷きを俺に向かって差し出していた。二回目のそれは少し強かったが痛みは感じなかった。

「下敷き……忘れてるよ。もうしっかりしてよ、しっかり者」

 チャイムの音、笑い声や話し声、慌ただしい足音、椅子を引く音などの雑音の多い中でも、灯莉の声は聴き取れた。想い人の声に全神経を集中させたから当然だ。

「サンキュー、しっかり者」

 そう返すと想い人は目を大きく見開いて、やがて笑顔を見せてくれた。可愛いすぎてキラキラ輝いて見えて幸福感で胸が一杯になったその時だった。


 俺さぁ……ずっと前から灯莉ちゃんのことが好きなんだよね。


 友達の瀧山たきやま天翔はるとから打ち明けられた事実を最悪なタイミングで思い出して一気に憂鬱な気持ちになる。昨日の放課後に、天翔は珍しく言いづらそうに照れくさそうに言った。その後、告白の協力を頼まれた俺は、


 誰が協力するか馬鹿! 何がずっと前からだ!? 嘘吐くな!! 好きになったのは灯莉が眼鏡からコンタクトに変えて、可愛かった顔がはっきりと見えるようになった最近だろうが!? お前は眼鏡を外すまで灯莉の可愛さに気づかなったくせに気づいた途端に告白すんの、ムカつくからやめろよ!! お前なんかに灯莉を奪われてたまるか!!!

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