第10話
こんな風に本音をぶちまけることはできなかったものの、申し訳ないけど応援することも協力することもできないと俺は断った。もしかして灯莉ちゃんのことが好きなのか? と天翔は真剣な表情で尋ねてきた。その質問は予想通りだったが、俺は表情の裏で冷や汗をかきながらしばらく黙り込んだ。友達の中で最も顔が広い天翔にだけは、バレたらいけないことは充分分かっていたが、好きじゃないとは絶対に答えたくなかった。
いやただの幼馴染だよ、と思い悩んだ末に答えた瞬間に胸が鋭く痛む。灯莉の泣き顔が頭に浮かぶと、さらに激しく痛んで、もう二度と嘘を吐きたくないとひどく後悔した。
灯莉には俺が、ただの幼馴染だと答えたことは秘密にしておいてくれ。もし万が一、灯莉が俺に好意を寄せていたら傷つける恐れがあるからな。念のため、そう口止めをして、天翔は分かったと即答したが心配だ。しかし、後はもう天翔が灯莉にバラさないことを祈るしかない。
じゃあ俺が好きだってことそれとなく灯莉ちゃんに伝えて、反応見てどうだったか明日一緒に帰ってる時に教えてよ。
天翔は俺の複雑な気持ちなどつゆ知らず、ほっとした笑みを浮かべながら頼み事をしてきた。俺は迷いに迷った結果、小一の頃からの友達も失いたくなくて、脈ありかどうか確認するという頼みを受け入れた。どちらを失いたくないかと問われたら一切迷わずに即答することができるというのに、本当に俺は臆病者で、欲張り野郎だ。
それはそうと、ずっと脈ありかどうか気になっていたが、天翔に頼まれたことがきっかけで、今日再び気になって、ようやく質問することができた。が、質問しようと決意したのも勇気を振り絞って質問したのも俺だし、天翔に直接ありがとうと伝えるつもりはない。
昨夜、緊張と不安でなかなか寝つけなくて今日寝不足で体がだるいのは、天翔が打ち明けなくてもいいことをわざわざ打ち明けたうえに頼み事をしてきたせいだ。今朝テンションがおかしくなって、ほぼ無意識のうちに俺が嫌いなナルシスト野郎がいかにも言いそうな台詞を連発してしまったのも、こいつのせいだ。咄嗟に冗談だと誤魔化したけど、やはり心の中で感謝するだけで充分ではないだろうか。
それにしても奪われてたまるか、か。天翔に言いたかった自分の本音を思い出して、依存しすぎだと内心顔をしかめる。でも、俺にとって灯莉は絶対に失いたくない大切な人で、これは一生変わらない事実だ。
灯莉はいつも、自他共に認める冷静沈着な俺の理性を奪う代わりに、俺自身でさえ気づかずに放置していた傷さえ愛情と熱のこもった言葉で癒してくれる。
出会った四歳の頃から小学三年生までの約五年間、ドジっ子でよく転んでしくしく泣いていた灯莉に手を差し伸べたのは俺だ。
だが、いつも、籠の中に独りで閉じこもっている俺の手を温かい手で掴んで、光が射している方に連れて行ってくれるのは、灯莉だ。本当に、誰よりも勇敢で誰よりも優しい心の持ち主だと思う。
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