第113話

そんな、ある日ー


「おいっ…」


ーんっ…


誰か…の、声…?


微かな意識の中で思った…。


「おいっ!」


肩を揺すられる。

少しずつ、意識がはっきりとしてくる…。


「おいっ! 起きろっ!!」


不機嫌そうな顔がそこにはあった。


「その本…読まないなら、貸してくれっ!」


「えっ…」


「聞こえなかったのか…? それとも、まだ…寝ぼけているのか…?」


目の前にいたのは、九条 秀也だったー…。


「あっ…ごめんっ…」


隆一は慌てて、指差された本を手に取り、秀也に差し出した。


途端…。


ハタッと、気づく。


…今…何て言った…?


サーッと血の気がひく。


…先輩に…敬語を使わず。話してしまったっ!!


上下関係に厳しい規則がある学校のため、うっかりでした…では、すまされないっ。


もちろん、例外はある。それは先輩・後輩互いに気心知れており、先輩が多少大目に許している場合だ。


隆一はちらっと、秀也の様子をうかがった。


「……」


秀也は、隆一から受け取った本のページをパラパラとめくり、その場を去っていった。


…気づかれて、なかった…?


秀也に何も言われなかった、隆一はホッと安堵した…が、


「ほらっ」


「えっ…」


目の前に1冊の本が差し出された。

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