第101話

次の日、孝直は憂鬱な気持ちで、家を出ようとしていた。


昨晩、自分のことを思って言ってくれた雄助を怒らせ、新に自分が思っていることを全て吐き出してしまった。人に自分の思いをぶつけるのは初めてのことだった…。


殴られた左の頬が…ズキッと傷む。

雄助が気にしないように、湿布を貼らずに職場に行こうと思ったが…見事に青アザができ…湿布を貼らざるを得ない状態だった…。

気持ちがさらに、ずんっ…と、重くなる…。


ふぅ…。


軽く息を吐き、左頬を叩いた。しっかりしろっ!と、気合いを入れた。


ガラッ。


「何? おまじない?」


いきなり玄関の扉が開き、不思議そうな顔で新が言った。


「えっ…あっ、新先輩っ!?」


「よっ。おはよう」


「おっ、おはようございます」


新はニッと笑い、手を上げた。いつもと変わらぬ姿がそこにはあった。


孝直は、ちょっとホッとした。


「ほらっお前も!」


自分よりも一回り身体の大きい雄助の腕を乱暴に引っ張る。


「お前…ずーたい、でっかいんだから、自分で動けよ…」


「あっ…」


「おっ…おう」


小さく手を上げ、素っ気なく言う。


「ちゃんとしろよっ!」


「いちいち、うっせぇーなっ!」


「挨拶は大切だ!」


めんどくさい奴だなーと、いう表情を浮かべ、雄助は頭をガリガリと掻いた。


「おっ、おはよ…」


「おはようございます」


ぶっきらぼうに言われ、孝直もぎこちなく、挨拶を返した。


やれやれ…と、新が頭を抱える。

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