第5話
想定外の遭遇、の次は想定外の質問をされて、私は驚きのあまり目を見開き、はっと息を呑む。
「いじめられたことが原因で萎縮するようになったのかもなぁって、幸雨から聞いた時に察したけど、いじめられてたのがほんとかどうか直接確認したかったから」
倉ノ下くんは独り言のようにそう呟く。悪夢のような日々の記憶がよみがえりそうになり、必死になって記憶の奥底に封じ込めた。
故意ではないにしろ、事実かどうか確かめるために私に直接質問して、トラウマを抉った倉ノ下くんも悪いけど、一番悪いのは
これは、神代くんを厳しく問い詰めても許されるのではないかと思った。何で勝手にバラしたんだろう。もしかして、私のことが嫌いだから?
嫌われたのはあの時かなぁ、と小五の鼻水垂らし事件を思い出して、身体の内側が鋭く痛んだ。
何だ、この痛みは。
痛んだのは恐らく、胸、心臓辺りのような気がする。これは、マーチングマルチタム(トリオ)のスティックを持った時、小さな木片が親指に突き刺さった瞬間の嫌な痛みに似ている。
幼稚園の保健室の先生に、その木片をピンセットで抜いてもらうと、親指の痛みは消えた。けれども、この痛みはなかなか消えないだろうという予感がしていた。
「それ、いつ神代くんから聞いたの?」
痛みを堪えながら私は気になったことを尋ねた。
「今日」
倉ノ下くんは即答してくれた。くれた、と思ったということは私は倉ノ下くんが教えてくれないことを、沈黙を、恐れていたらしい。
すぐに答えをくれて助かったけど、倉ノ下くんは気まずそうに目を逸らしていた。あからさまに逸らしていた私とは違って、微妙にという感じだけど。
それでも、充分ショックを受けたし、気まずいし、辛いし、寂しい。こんな思いを味わわせていたのかと思うと、罪悪感に押しつぶされそうになる。
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