第2話 まぁ字幕版のが良いかな……
また別の日。
「斎藤くん! レッドミールVSウルフマンVSダークサン観に行きましょう!」
ということで、そういうことになった。
*
最近のアメコミ映画は長いので、当然放課後には見れない。
俺と西園寺は土曜日の昼前に待ち合わせをした。
……休日デートなのか?
「あ、斎藤くん!」
休日デートっぽくない服装の西園寺が、姿を現した。
でかでかと『I♥OKINAWA』と書かれた野暮ったいシャツ。
アラビア語が書かれたキャップ。
飾り気のないスカート。
「……沖縄いってきたの?」
「ママが、以前買ってきてくれたものです。良いですよね」
まぁ。
良いか悪いかで言ったら、めちゃくちゃ欲しいくらいには良い。
変なTシャツ欲しいな。
着る度胸はないけど。
「良い」
「ですよね!」
きゅむ……っと、目を閉じて嬉しそうに微笑む、西園寺。
服があれでも、顔が良いから清楚に見える。
清楚とは?
「あっそうだ。混む前にパンフ買いにいきましょう! あと、チュロスと、コーラと……」
「チュロス派なんだ」
「あ、斎藤くんはポップコーン派でしたか?」
「ナゲット」
「男の子ですね」
「男の子だからね」
西園寺は、血塗れの中年男性が三人絡み合う表紙のパンフレットを、満ち足りた表情で買った。
*
観た。
「またダークサン巻き込まれてたね……」
「ですね……」
感想戦に行く流れはスムーズだった。
映画館内で話すのは無作法というものなので、行先はビャスコ内の牛丼チェーンである。モスドナルドは混んでたから今度にする。
「……というか西園寺さん、牛丼とか食べるのね」
「? 食べない人なんているんですか? 牛肉アレルギーとか……?」
「いや」
十二種のチーズ盛豚丼である。
美味しいよね。
清楚な子が食べるイメージ無いけど。ガンガンに紅ショウガとタバスコかけながら食べるイメージは欠片もないけど。
この子、別に清楚ではないのでは?
「なんかイメージと違うなぁ……って」
「でしたね。私、どちらかというと赤狼派で狼赤派ではなかったんですが……」
「うーん清楚が流れるように破壊されていく」
誰が漢字一文字でキャラを表現しつつ左右の関係についてのイメージの相違について話せと言ったのだろう。通じる相手少ないぞ。
「せいそ?」
「清楚は知ってるでしょ」
「たしかに知っていますけれど……私が?」
きょとん、と牛丼を置いて首をかしげる、西園寺。
「…………そう、見えますか?」
「顔だけなら」
「顔」
「結局顔でしょ」
「う、うぅ……ちょっとむずがゆいですね」
困ったように頬をかく西園寺。
苦笑している様は、まともな着物さえ来ていれば大和撫子といった感じだ。服とキャップがダサくても清楚が隠せていない。
清楚とはなんだろう。
「斎藤くんは……」
「ん?」
「斎藤くんは……中身まで清楚な方が、良いですか?」
良いか悪いかで言ったら。
「付き合いやすい方がいい」
「!」
アメコミ映画、プラモ鑑賞、牛丼チェーンで飯が済む。
付き合いやすい。
なんというか、男友達みたいで。
「つつつ、付き合うなんてそんな……ぁぅ」
顔を真っ赤にする、西園寺。
紅ショウガの入れすぎではないか。
「水、お代わり持ってこようか?」
「お、お願いしまひゅ……」
落ち着かせる。
「……まぁ……」
牛丼を食べ終える頃には、感想戦もまとまった。
「吹き替え版の主題歌だけアイドルが歌うの、やめてくんないかな」
「本当にそれですよね」
清楚な彼女の趣味が男友達すぎる件 @syusyu101
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