第2話 まぁ字幕版のが良いかな……

 また別の日。


「斎藤くん! レッドミールVSウルフマンVSダークサン観に行きましょう!」


 ということで、そういうことになった。



 最近のアメコミ映画は長いので、当然放課後には見れない。

 俺と西園寺は土曜日の昼前に待ち合わせをした。

 ……休日デートなのか?


「あ、斎藤くん!」


 休日デートっぽくない服装の西園寺が、姿を現した。


 でかでかと『I♥OKINAWA』と書かれた野暮ったいシャツ。

 アラビア語が書かれたキャップ。

 飾り気のないスカート。


「……沖縄いってきたの?」

「ママが、以前買ってきてくれたものです。良いですよね」


 まぁ。

 良いか悪いかで言ったら、めちゃくちゃ欲しいくらいには良い。

 変なTシャツ欲しいな。

 着る度胸はないけど。


「良い」

「ですよね!」


 きゅむ……っと、目を閉じて嬉しそうに微笑む、西園寺。

 服があれでも、顔が良いから清楚に見える。

 清楚とは?


「あっそうだ。混む前にパンフ買いにいきましょう! あと、チュロスと、コーラと……」

「チュロス派なんだ」

「あ、斎藤くんはポップコーン派でしたか?」

「ナゲット」

「男の子ですね」

「男の子だからね」


 西園寺は、血塗れの中年男性が三人絡み合う表紙のパンフレットを、満ち足りた表情で買った。




 観た。


「またダークサン巻き込まれてたね……」

「ですね……」


 感想戦に行く流れはスムーズだった。

 映画館内で話すのは無作法というものなので、行先はビャスコ内の牛丼チェーンである。モスドナルドは混んでたから今度にする。


「……というか西園寺さん、牛丼とか食べるのね」

「? 食べない人なんているんですか? 牛肉アレルギーとか……?」

「いや」


 十二種のチーズ盛豚丼である。

 美味しいよね。

 清楚な子が食べるイメージ無いけど。ガンガンに紅ショウガとタバスコかけながら食べるイメージは欠片もないけど。


 この子、別に清楚ではないのでは?


「なんかイメージと違うなぁ……って」

「でしたね。私、どちらかというと赤狼派で狼赤派ではなかったんですが……」

「うーん清楚が流れるように破壊されていく」


 誰が漢字一文字でキャラを表現しつつ左右の関係についてのイメージの相違について話せと言ったのだろう。通じる相手少ないぞ。


「せいそ?」

「清楚は知ってるでしょ」

「たしかに知っていますけれど……私が?」


 きょとん、と牛丼を置いて首をかしげる、西園寺。


「…………そう、見えますか?」

「顔だけなら」

「顔」

「結局顔でしょ」

「う、うぅ……ちょっとむずがゆいですね」


 困ったように頬をかく西園寺。

 苦笑している様は、まともな着物さえ来ていれば大和撫子といった感じだ。服とキャップがダサくても清楚が隠せていない。

 清楚とはなんだろう。


「斎藤くんは……」

「ん?」

「斎藤くんは……中身まで清楚な方が、良いですか?」


 良いか悪いかで言ったら。


「付き合いやすい方がいい」

「!」


 アメコミ映画、プラモ鑑賞、牛丼チェーンで飯が済む。

 付き合いやすい。

 なんというか、男友達みたいで。


「つつつ、付き合うなんてそんな……ぁぅ」


 顔を真っ赤にする、西園寺。

 紅ショウガの入れすぎではないか。


「水、お代わり持ってこようか?」

「お、お願いしまひゅ……」


 落ち着かせる。


「……まぁ……」


 牛丼を食べ終える頃には、感想戦もまとまった。


「吹き替え版の主題歌だけアイドルが歌うの、やめてくんないかな」

「本当にそれですよね」

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清楚な彼女の趣味が男友達すぎる件 @syusyu101

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