祝福と呪詛を貴方に

風宮 翠霞

最初で最後の独白

これをあなたが読んでいるという事は、私はもうこの世にはいないのでしょう。

なんていうありきたりな出だしで、この手紙を。

この遺書を、つづります。


私が最も愛し……最も憎んだ貴方あなたへ届けと願って。


貴方は私を、決してしいたげはしなかった。

貴方は私を、立派に育ててくれたでしょう。


ですが、愛してはくれなかった。


ずっと、自分が消えて仕舞えば良いと思っていました。

ずっと、自分が死んでくれれば良いと思っていました。


けれど、同じくらいに。


ずっと、自分のことが大事でした。

ずっと、生きていたいと思っていました。


ずっと、たった一人の貴方に愛して欲しかったんです。

ずっと、貴方に私のことが必要だと言って欲しかったんです。


その一言以外は、何も要らなかった。

そのたった一言を貰う為に、血反吐ちへどを吐いて努力しました。


進んで手伝いをして、言われずとも勉強をして、誰に何を言われても微笑ほほえんで……。

だけど、私は物語の登場人物のように上手くは出来なかった。


左耳が、聞こえなくなりました。

目が、見えなくなりました。

その度にお医者様から言われるのは、「心因性のものだよ」という言葉。


その言葉は、どうしようもないくらいに私の弱さを証明していた。


治るまでは、めんどくさそうにしながらも優しくしてもらえた。

それは、愛ではなかったと思うけど。

それでも、その後は優しさにむくいる為にもっと必死になって頑張った。


悩む誰かに大丈夫だよと声をかけるその度に。

自分にかけるのは「もっと頑張れ」という言葉。


みんなと同じじゃ見てもらえない。

私が一番じゃないと。

一番じゃ、ないと……。


そう頑張っているのに、いつも頭のすみで声が聞こえるんです。


いいなぁ……。

彼女も同じはずなのに。

同じ血が流れているはずなのに。


なんでお前は、見てもらえるの?


一番じゃないくせに。

努力なんて、してないくせに。


なんでお前が、めてもらえるの?


なんでお前が、愛してもらえるの?


一度気がついて仕舞えば、望んでいない呪詛じゅそが頭から離れない。


一年違う、だけなのに。

たったそれだけの、違いなのに。

その差は、どう頑張ろうとくつがえせないものだった。

たったそれだけの差が、残酷ざんこくなほどに大きかった。


甘え上手で少しわがままな彼女はいとおしいけど手間がかかって。

甘え下手で聞き分けのいい私は放っておいても大丈夫だと思われた。


今思えばきっと、それだけだったんでしょう。


私はずっと、自分が嫌いでした。

自分が嫌いで仕方がありませんでした。


知らなかったでしょう?

だって貴方の前では、私は笑っていたから。


私はずっと、自分のことが大事でした。

自分のことだけが大事でした。


知らなかったでしょう?

だって私は貴方に自分の為に反抗しなかったから。


私は貴方に愛されない自分が嫌いで……。

でも自分が大事だから愛をあきらめられなかったんです。


知っていますか?

人は、弱い生き物だから。

誰かに肯定こうていしてもらわないと、生きられないのですよ?

私を肯定してくれる人は、どこにいたのでしょうか?


ねぇ、もしも私が彼女と同じように手間のかかる子だったら。

貴方は愛してくれましたか?


ねぇ、もしも私が相談していたら。

貴方は一緒に悩んでくれましたか?


ねぇ、もしも私が途中で手を伸ばしたら。

貴方はその手を取ってくれましたか?


私はずっと、そんなもしもを想像しています。


これは私の、つまらないうその告白です。

大丈夫という、たった五文字の嘘の、告白です。


ごめんなさい。


上手く愛せなくて、ごめんなさい。

上手く愛されることができなくて、ごめんなさい。

上手く生きられなくて、ごめんなさい。

上手く死ねなくて、ごめんなさい。


最期さいごくらいは、ちゃんと笑って死んで見せますから。


今までの私をほうむって。

今までの私をこの世から消し去って。

今までの私を殺して生きますから。


私は、もう見切りをつけますから。

私は、もう貴方を求めませんから。


もう、私の人生に貴方はいらない。

生涯しょうがい向けられる事のないあなたの愛など、もう求めません。


間違えないで下さい。


貴方が私を捨てたのではありません。

私が貴方を捨てたのです。


私はこの先、一人で生きていきますから。


貴方はどうか……。

どうか彼女と……他の皆様と、お幸せに。

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