第11話 グリン支部
「ここで構わんから買い取って欲しい装備は出してくれ? わしの恩人だ、なるべく色をつけて買い取らせてもらうぞ。」
そう言うと、共に部屋に入ってきていたスタッフがどこから出してきたのか、物が傷つかないように緩衝材の敷かれている台車を手に既にスタンバイを済ませていた。
一歩間違えればホラーとも受け取れるようなその対応に少し意表を突かれながらも、言葉に従いシュバルツくん達の装備をスタッフへと預ける。
「査定を待つ間にギルドの話を済ませたいのだが、付き合ってもらえんだろうか? 君達の報酬にもかかわる話なんだが…。」
当然ここまで乗り掛かった船、最後まで付き合うつもりだ。
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「こんにちは! ようこそ冒険者ギルド グリン支部へ!」
虹光商会へと預けた装備数はかなりの量。色々と事を済ませてももしかしたら査定の方が時間が掛かるかもしれないとの事だったので、拠点登録の為グリンのポータルを経由した後、都市の中心から少し外れた箇所に施設を構える冒険者ギルドへとやって来ていた。
「人がよく集まりそうなのに都市の中心にはないんですね…?」
疑問を口にするハルに答えるはコーレルさん。
「うむ。グリンは商人の街と言っても過言ではないからな、都市の作りも商人寄りになっている。」
商人よりも冒険者を相手にする国営施設だから中心から外れている、との事。これが民間の、商人が携わっているものであったなら中心に建っていたのだろうか。確かに利用するとすれば商人は依頼する側になってしまう。
コーレルさんに連れられ、通常のプレイでは利用する事がまずないだろう依頼者用のカウンターへと赴く。タイミングよく列は出来ておらず、すぐに対応してもらえそうだ。
「コーレルさんじゃないですか〜!こんちは! 依頼報酬のお支払いですかぁ?」
「その件について話がしたい、責任者はおるかね。」
先ほどまでニコニコと案内してくれていた好々爺の姿はそこにはない。冷たく重たい圧を感じさせるその声は、先ほどまでふわふわと対応していた受付嬢をビビらせるのに十分な迫力を伴っていた。
「す、すぐにお呼びします! 少々お待ちください!」
パタパタと後方へ駆けていく受付嬢。少し同情してしまうが、こちらは冒険者ギルドに被害を受けている側。下手に出て丸め込まれようものなら目も当てられないのだ。
受付嬢が責任者を呼びにカウンターを離れてそう時間も掛からずにその人はやってきた。
「久しぶりかのぉ?コーレル。受付嬢が怯えておったぞ…何用じゃ?」
「話が早くて助かるがお前かマゴイ…。」
マゴイと呼ばれる白髪白髭の御老人。コーレルさんとは既知の間柄の様だった。
「其方の3人ははじめましてかのぉ。ワシはマゴイ。ここ冒険者ギルド グリン支部のギルドマスターを任されておるじじぃじゃよ。」
その姿は冒険者ギルドにおいて異色。
大概ギルドの代表というのは、比較的気性の荒い者が集まりやすいギルドに於いて、揉め事を力技で解決できるようガタイの良かったり、パワーを持ち合わせた者がその座に着く事が多い様で、今まで見てきたギルドの代表はその例に漏れず、ガタイの良いおっさんが殆どだった。
この人が…? とその名乗りに思考を回していると、こちらの考えを察したようでコーレルさんが口を開く。
「このジジイはこう見えても昔はその名を轟かせた魔法師でな。今でもその腕を買われてマスターの座にしがみつかされているのだ。」
「もう世代交代の時期だとは何度も言うてきておるのじゃがなぁ…。若い世代に期待じゃの。…そんな事を話に来たんじゃないのじゃろ? ほれ、裏に行こうかの。」
そう言うとカウンターから出てきて案内を始めてくれるマゴイマスター。今日2度目の応接室に迎えられる事となった。
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「闇ギルド… のぉ。」
ここまでの一部始終を聞き終え、その話を吟味するように呟くマゴイマスター。
「噂の域を出てしまったか…。」
「知っていたのか?」
マゴイマスターの言葉に驚いた様にコーレルさんが返す。流石はギルドマスターと言ったところか、情報はすでに掴んでいたようだ。
「王都の件。知っているじゃろ?」
「まさか関わっているとでも?」
「真相は分からんがな。そういった噂が出回っている、という程度じゃ。しかしお主が狙われた理由は聖国の物なのじゃろ? 取引相手も察しがつくわい。」
「…ああ。王城関係者だ。」
「繋がっていると見て良いじゃろうな。」
応接室に沈黙が訪れる。
事態は思っていた以上に根深く、辺りを覆い隠し始めている様だった。
「…話は分かった。冒険者ギルドを代表して謝罪させてほしい。すまなかった。」
「お前が出張ってきた時点でもう溜飲は下がっとる!話はもうそんな場合じゃないだろうに。」
「そんな事言うてもワシも立場というものがあるのじゃがなぁ…。御三方も悪かったのぉ、ワシ等のせいで迷惑をかけた。後で受付で報酬をもらって欲しい。」
コーレルさんの返しに困った顔をしながらも、こちらをしっかりと向いて謝罪をするマゴイマスター。こちらとしても損得勘定があった上で足を突っ込んでいる為、立場があるとはいえかなりお年を召している人に腰を折って謝られると逆に申し訳なくなってしまう。
「俺達自身も冒険者ですから! 自分達の判断で関わってますから! 頭を上げてください!?」
精神的に疲労がきた気がする…。
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その後、何か新たに分かった事があれば優先的に情報を回すという事で話が付き、巻き込んでしまった手前俺達にも情報を回してもらえる事になった。今後は何処の冒険者ギルドでも情報を伝えてもらえるらしい。
元々定められていた報酬額に冒険者ギルドからの迷惑料としてかなり色の付けられた報酬を受け取り、冒険者ギルドを後にする事になった。
「話が長くなってしまったな。時間をとらせて済まない、商会に戻ろう。査定も終わってる筈だ。」
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