第10話 虹光商会

門を通ればそこは異世界だった。



…とまではいかないが、横幅25mもあろうかというほどに大きな通りは綺麗に石畳で整備されており、凹凸などどこにも見当たらない。その上を馬車や人が行き交い、両脇には大小の店舗が立ち並ぶ。オーレンのメインストリートも中々に賑やかなメインストリートだったが、これを見てしまうとそのというものが分かってしまう。


流石は物の集まる都市。オーレンで見かけたものは全てここからやってきたんじゃないかと錯覚するほどに、見渡した範囲の視界に入るその物量だけで圧倒された。



「とりあえずはわしの店まで行こう。落ち着けんだろぅ?」


コーレルさんの言葉に甘え、【虹光商会 グリン支店】にお邪魔させてもらう事になった。元より不要な物を買い取ってもらう話であったし、コーレルさんはまだ狙われる理由となったその取引を終えていないのだ。油を売るのは後でもいいだろう。



「さて。ようこそわしの店、【虹光商会】へ。」


虹光商会は都市の中心部に店を構えていた。相当大きな店構えであり、表には整理の為に人員を割かなければならない程に客が殺到していた。

記憶が確かなら中心部に建てられるのはかなりの人気と財力を兼ね揃えていないと難しかったはず…、所謂花形店舗というやつだろう。ウカが大手と言うのも頷ける。


先ほどの門同様、列を横目に店内へと案内される。並んでいる者の一部がこちらを睨んでくるも、共に来店している者がそれを制していた。きっとコーレルさんを知る者と知らない者の差なのだろう。

店舗の会頭がわざわざ直々に案内している者に突っかかるなど藪から蛇どころか鬼が出てくるようなモノだ。それを判断できるあたり彼等もまた商人なのだろうか。


しかし、その列全てが商人という訳でも、コーレルさん虹光商会会頭の顔を知っている訳でもない。一般の客で、かつコーレルさんとの関係値がない者からすれば、いきなり現れた爺さん等が並んでいた俺達を抜かして店内に入っていくのだ。当然訳がわからないだろうし、気が短い者からすれば黙って見過ごせる訳もないだろう。


即ち…



「おぃ!なんだよこのジジイは! ここに並んでんのが見えてねぇのか!?」


-こうなる訳だ。



周りを見れば反応は大きく3つに分けられた。


1つは「あいつは何をやっているんだ…。」とその行動に反対的な者。先ほど睨んできていた者を制していた商人風の者や、制されてその正体が分かった者、混雑を避ける為整理をしていた店の従業員がこれに当たる。


そして「俺達は知らないぞ…。」とその騒ぎから目を逸らしたり、共に来ていた者と会話を始めたりで我関せずの反応をする者。これは一般の者なのだろうが、騒ぎを起こして店舗との関係悪化を避けたかったんじゃないかと思われる。


そしてもう1つ。

一緒になって騒ぐ者達である。



「本当だぞ! 俺達がどれだけ待ったと思ってるんだ!」


「何様だこのクソジジイは!」


「割り込みがダメって分からないんですか!?」


店舗前は騒然とし始め、下手すれば暴動一歩手前、先ほどは触らぬ神に祟りなしと傍観に回っていた者達の中からも、数的有利を悟ったのか、正義は我にありと感じたのか参戦し声を荒げる者が出始めた。



「大事になってきたな。」


「だ、大丈夫なんですか…?」


「わしも顔が知られてきたと思ってたんだがなぁ…。」


しまったしまったと後頭部をかきながらやっちまった!とこちらへ憎めない笑顔を向けてくる好好爺。その姿はどこにも焦ったような雰囲気はなく、慣れたもんだと言わんばかりだ。



「ここはわしと従業員で静めるでな、先に入っとってくれるか? …そこの!案内を変わってくれ!くれぐれも丁重にな!」


そう言うと鎮静を図ろうとしていた従業員を1人捕まえ、指示を出したかと思えば暴走する客達へと向かっていくコーレルさん。



「大変失礼致しました。こちらへどうぞ。」


突然の指示にも疑いも慌てることもなくスマートに対応してくれる執事のような見た目の男性スタッフ。これもコーレルさんの育成の賜物…なんだろうか。



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店内は表と打って変わり、おしゃれな店内BGMが耳に入ってくるほどに落ち着いていた。


少しは壁を貫通し聞こえてくる怒声もあって何事かと外を気にする客もいたが、即座に店内スタッフが対応し、混乱を生じさせることなく平常時と変わらない店内の維持に努めていた。



「お騒がせ致しまして申し訳ありません…。すぐに会頭も騒ぎを収めて戻ると思いますので、こちらで暫しお待ちいただけますでしょうか?」


そう案内されたのは店内の奥、STAFF ONLY関係者以外 立入禁止と書かれた札の掛かっている扉の向こう。

センスの良い壺や絵画などが、嫌味にならない程度に綺麗に配置され、中央には高そうな木でできたテーブルと柔らかそうなソファが置かれた部屋に通される。応接室だろうか。


こちらとしても急ぐ用事ではないが先の件もある、従業員が周囲に居ると言えど、表に残すのはいかがな物なのだろうかと心配を口に出そうとしたところで、「警護はおりますので御安心を。」と先手を取られる。心が読まれているとでも言うのだろうか、執事な見た目も相まってとても様になっていた。



暫く一緒に用意された菓子や飲み物で時間を潰していると、ガチャリと扉が開き、先程の執事風の男性スタッフを連れたコーレルさんが戻ってくる。



「すまんな、こういった事は最近減ってきていると思ってたんだが…。わしもまだまだだな。」


「えっと…、大丈夫でしたか?」


ハルが心配そうに尋ねるも、「慣れたもんだ。」なんてガハハと笑い飛ばしてくれた。



「…さて。わしらの本題に入ろうかね?」


これから話し合うは装備の売買。そして各ギルドについてである。

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